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ジャンル・やかた 3


「あんたはここで寝泊りしな。 グレーもここにいたんだよ。」
ローズは天井のライトを点けた。
「こっちがバストイレ、お茶はこのコンロで。 飯は食堂で。」

部屋はイメージ的には、こげ茶色の書斎、って感じ。
天井まで5mぐらいの高さがあり
その中ほどぐらいまで、荷物が積み上げられている。
机、椅子、テーブル、ソファー、ベッド、タンス大小4つ
と、一通りの家具は揃っていた。
机の上にはパソコンも置かれている。

リュックとボストンバッグに、ショルダーバッグを
ベッドの上に置いた時に、ふと気付いた。
よくこの荷物を持っていたな、と。
忘れてきても無理ない状況だったのに
やっぱ私ってしっかりしてるよな、とフフッと笑った。

それをしっかり目撃したローズは、ゾッとした。
アッシュの言葉や仕草、反応、そのことごとくが
ローズには理解できなかったからである。
最初に見た時には、いかにも頭の弱そうなお嬢ちゃんだと感じたのに
外国人だからだろうか? と、ローズは首をひねった。

ソファーにどっかりと腰を下ろしたアッシュが
いかにも知的そうなそぶりで訊ねる。
「で、鎌・・・ローズさん
 私はどういう立場に置かれているんでしょうー?」

「あんた、さっきっから、鎌って言ってるよね? 鎌って何なの?」
「・・・鎌・・・」
アッシュはローズの右手に握られた鎌を指差した。

「あ? ああ、これは草刈り用だよ、失礼だね!
 私の武器はこっちだよ。」
ローズはスカートの背にはさんであった大鋏を取り出した。
アッシュは果てしなく引き潮に乗った。

「クロックタワーのハサミ男ー?
 もしかしてこっちが悪役とか言う設定なんですかー?」
「あんたの言う事がほとんどわかんないんだけど?」
イラ立つローズに、アッシュは謝った。
「今のはゲームの話なんですー。
 すいません、いつもはこうじゃないんですけど
 何かもう、パニくっちゃってー。」

「まあ、それなら無理もないよ。
 いいさ、ちょっとぐらいわけのわからない言動をしたって。
 泣き喚かれ続けられるより、よっぽどマシだしね。」
ローズはちょっと安心した。
ホラーだのゲームだの、こいつは多分フリークというやつなんだろう。

「あんたの訊きたい事はわかる。
 あんたは兄から、この館の相続権を譲り受けようとしてるんだ。
 それを受けるには、この館のどっかの部屋に行って
 館の主に会わなきゃいけない。」
「アドベンチャーだったんですかー・・・。
 さっきの通り魔は何なんですかー?」
「この館に何人の人がいるのか、正確にはわからない。
 でも、いるのは、あんたにとって3種類。
 敵、味方、どっちでもないヤツ。
 さっきのは通り魔じゃなくて、敵。 はっきり目的を持った敵。
 あんたを阻止しようとしてるのさ。」

ありがちだな、とアッシュは思った。
おそらく、ローズは自分の守護者なのであろう。
「で、あなたは味方なんですねー?」
「よくわかってるじゃないか。
 私は本来なら今回は違うはずだけど、あんたの兄さんに頼まれてね。
 しょうがないから、あんたを守って手助けしてやるよ。」

「でも、その “阻止” とか、“手助け” とか、殺人ですよねー?
 さっきひとり死んでましたよねー?
 それ、普通なら罰せられると思うんですがー。」
「あんた、ホラー好きならわかるだろ。 ここは治外法権なのさ。
 誰が死のうと、逮捕も裁判もないよ。」
鼻で笑うローズに、アッシュがつぶやいた。
「でも、罪悪感はー・・・?」

ローズはいきり立った。
「そういうセリフは、生きてここを出られた時にぬかすんだね!
 罪悪感がイヤなら、無抵抗で死ぬがいいさ。
 あんたが死ねば、私もこの役目から解放されるってもんだ。
 代わりに戦ってやろうと言ってる人間に対して
 何もしないあんたが何を責められるっていうんだよ
 そういうのを口先だけのキレイ事って言うんだよ
 私を怒らせたら困るのはあんただよ! わきまえな!!」

うわっ、自称世界の警察国家理論!
アッシュはそう思ったが、これ以上逆らうのは確かに得策ではない。
多分、クリアせずにこの館を出る事は出来ない。
何かもう、この上なく理不尽な巻き込まれ方をしているようだが
明らかに自分の道は、生き残るか死ぬかの2つしかないのだ。
・・・緊急避難・・・に、適用されるよね・・・?
プラス、脅迫、強要、この両方でいけるかも知れない。

生と死の狭間にあっても、法的処遇がまず頭に浮かぶ自分は
近代国家に暮らす真っ当な国民だな、と誇らしくもあって
再び知らず知らずに口元が緩んでいた。
やはり、あまりの出来事にちょっとどっかが壊れたのかも知れない。

こっちが激怒したっていうのに、よそを向いてニタニタ笑うアッシュに
嫌悪感を感じ、一刻も早くその場を立ち去りたくなったローズは言った。
「とにかく今日はもう、休むんだね。
 飯は食堂にあるよ、ここに居住区の見取り図が貼ってあるから。
 私は食堂か自分の部屋にいる。 用が出来たら声を掛けな。」

「あ、はい、どうもお世話になりましたー。」
アッシュは深々と頭を下げたが、それを見てローズは
益々、ヘンなヤツだとしか思えなかった。

ローズが部屋を出て行った後、アッシュはバッグを開けた。
携帯電話を取り出し電波を確かめたが、やはり圏外である。
ボストンバッグの方から充電器を出し、コンセントを探したら
机の下にタコ足気味なのが転がっていたので、それに差し込んだ。

次に、タンスの扉と引き出しを全部開ける。
こういのは下から下から、と、どこまでも遊び半分に見えるが
アッシュはアッシュなりに真面目なのだ。

タンスには、多数の男物の衣類が入っていた。
その中に、見覚えのあるセーターが入っていた。
これ、多分お兄ちゃんのだ・・・。

何かというと、ウンチクをたれるヤツで
このセーターの時は、確かアルパカの産地について何か言っていた。
聞き流したので、キレイさっぱり覚えていないのが
兄不孝をしたような気がして、ちょっと落ち込む。

その兄が死んだという知らせは、今でも信じられずにいた。
両親が他界してから、しばらく連絡が取れてはいたのだが
いつの間にか音信不通になり、気が付くと連絡不能になってしまい
元々地に足のついていないヤツだったし
どっかで浮浪者でもやっているんだろう、と諦めてはいたのに
まさか訃報が届くとは、そこまで想像はしていなかったのだ。

それが本当なら、私は天涯孤独になっちゃったんだよな・・・
ちょっとウルウルときそうになり、慌ててその感情を打ち消す。
いや、死ぬのを見ていないのなら、死んだと認識しなくて良い!
今も兄はどっかでフラフラやっている、と思おう。

今はとにかく、感情より現実!
少しでも多くの情報を集めなければ。
アッシュは、パソコンの電源を入れた。

続く。

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