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殿のご自慢 48


ここ数日、伊吹は城で寝泊りをしていた。
青葉は “病” とかで登城して来ない。
城の人々は、青葉の
新しい “師” の 噂をしている。

「まったく、この城の者は他人の噂が
余程好きと見える。」
高雄の寝支度を整える安宅が言う。
「稀にみる麗人ゆえ
いたしかたないでしょう。」

青馬鹿姫か・・・
どこまで邪魔なのか・・・。
高雄は苦々しげに思った。

勝力は使える男である。
腕が立つ上に知恵も回る。
味方に付けておきたい人材だ。
まさかあいつが
青馬鹿姫に惚れていたとは。

 

ふと安宅に問う。

「おまえも青馬鹿姫が好きか?」
「嫌いになる理由がございませぬ。」
「馬鹿なくせに傲慢な女なのにか?」
「あのお方は、それも
魅力のひとつでございましょう。」

安宅が注いだ酒をひとくち含みながら
考え込む高雄。

「高雄さま、忠心より
言いにくい事を申します。
伊吹さまとのご友情は
存じ上げておりますが
今後の八島では青葉姫さまの方が
重要な立場になってくると思います。
お嫌いになるのは
得策ではないと・・・。」

 

高雄は無言で杯の中の酒を見つめる。
その小さな水面に
自分の目が映っている。

確かに千早家を背負う身としては
感情に流されるべきではない。
大殿は明らかに
青馬鹿姫を気に入っている。

だが、私にはあの女に
とてつもない嫌悪感がある。
龍田家の善良な人々の中でも
あの女の異質な雰囲気は浮いていた。
何故あの女の邪悪さを
皆がわからぬのか・・・。

高雄は立ち上がった。
「伊吹のところへ行く。」

伊吹はまだ起きていた。
灯りもつけず、窓の桟に肘を付いて
星を眺めている。

「傷心の風情だな。」
高雄が酒瓶を持って目の前に座る。
「・・・傷付いているのは青葉の方だ。
青葉が伏せっているのは
俺が殺しかけたからだ。」

その言葉には、さすがの高雄も
息を呑んだ。
「・・・本気でか?」
「わからぬ。
気が付いたら青葉の首を絞めていた。」

伊吹のこういう様子を見るのは
何度目であろう。
青葉が現れるまでの伊吹は
皆に信頼され好かれる
明るく爽やかな武士であった。

なのに今は、国一番の美女をめとった
幸運な男として
城の者の羨みや妬みの渦中にいる。

八島の殿も、最初は確かに
伊吹に温情をかけていた。
だがそれもいまや、伊吹の嫉妬心を煽って
遊んでいるかのようである。
まるで八島の殿が
伊吹に嫉妬をしているかのごとく。

「もう別れるか?」
「無理だ。」
「では殺すか?」
「無理だ。」
「どうしたい?」
「無理な事だ。」

高雄は酒を注いだ杯を伊吹に握らせた。
「眠れているか?」
伊吹は答えない。
「飲め。」

杯を一気にあおる伊吹に
酌をしながら高雄は案じた。
伊吹の心から
どんどん余裕が失せてきている。

青馬鹿姫が死のうがどうしようが
どうでも良いが
伊吹が破滅するのは何としても止めたい。
どうしたものだろうか・・・。

酔い潰れて床に転がる伊吹の乱れた髪を
手持ち無沙汰に整える、
高雄の細く長い指。

美しい三角を作れたのは
私たちが餓鬼だったからだ。
いや、餓鬼の私たちを
乾行が上手く導いてくれた。

私たちは他の何の事も考えずに
真っ直ぐに前に向かって
武器を振るえば良いだけであった。
だが、伊吹が
私たち以外を見つけてしまった。

高雄は窓の下に広がる闇を見る。
私たちには考えるべき事が沢山ある。
家、いくさ、政り事、この国の行く末。

3人で遊んでいられる時期には
必ず終わりが来る。
それはわかっていた。
だが伊吹は女に翻弄され
乾行は殺された。

私たちの三角が
このような最期を迎えるなど
思ってもみなかった。

伊吹の寝息が聞こえる。

いいや、まだ最期ではない。
高雄は伊吹にそっと布団を掛けた。

 

続く

 

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