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亡き人 Archive

亡き人 1

 あれっ・・・?
 
あたりをキョロキョロと見回す。
うっわー、真っ暗。
私、また夜まで昼寝しちゃった。
ああ・・・、空しい・・・。
 
にしても、夜ってこんなに真っ暗じゃないよね?
電気電気、あ、あれっっっ???
スイッチ、どこにあったっけ?
え? ちょっ、私、ついでに記憶もない?
 
え? え? って事は、もしかしてここ病室か何か?
私、記憶喪失とかで入院させられてんの?
 
 
グチャグチャになった頭を抱えながら
あたりを見回してみるが、明かりひとつない。
 
・・・隔離病棟って言うより、刑務所の懲罰房・・・?
まさか私、犯罪犯して服役してるとか?
 
そう思った瞬間、激しい目まいがして、うずくまった。
 
 
ふと気が付くと、部屋の中にいた。
あ、夢だったー、良かったーーー。
 
ホッとしたのもつかの間、背後で人の気配がする。
振り向くと、こちらを見て驚いた表情の若い男性が座っている。
 
「あなた、どっから・・・!」
そう言い掛けてよく見ると
ここ、私の部屋じゃない!
どっから来たのは私の方じゃんよー!
 
慌てて、青年に頭を下げた。
「えっと、何でここにいるのか、よくわからないんですけど
 人様のお宅に勝手に上がりこんでいたようで
 ほんと、申し訳ございません。
 すぐ出て行きますんで。」
 
相変わらずビックリ顔の男性だが、とにかく勢いでごまかして
おおごとにされる前に、ここを脱出せねば
そう思い、ドアに向かおうとした瞬間、青年に呼び止められた。
 
 
「あ、あの、待ってください!」
あいたー、正気に戻られたーっ。
 
ガックリしたが、何とか言い逃れをしようと奮闘する。
「ほんとすいません、ほんとすいません
 明らかに怪しいでしょうけど、ほんと何かの間違いですんで
 何とぞご容赦ください、出来れば通報とか勘弁してくださいーーー!」
 
両手を合わせて平に頼み込んでいたら、青年が呆れ顔になった。
「・・・驚いた・・・。」
 
ええ、ええ、そうでしょうとも。
こんな夜中に、得体の知れない女が部屋に上がりこんでさ。
 
何でこうなったのか、私にもよくわからないんだけど
とにかくこの状況では、私側に非があるのは明白。
私、マジ犯罪者になっちゃうじゃんー。
どうやって、この窮地を切り抜けたら良いんやらーーー。
 
 
頭をフル回転させて、算段していると青年が言った。
「あの、あなた、死んでますよね・・・?」
 
「はあああああ?」
ああ、しもうた、気違いはこいつの方だったか、と激しく脱力する。
 
「うーん、自覚ないんですかー。
 まあ、だからこそ迷っているんでしょうけどね。
 そこの水、取ってくれます?」
「は? これですか?」
 
掴もうとした自分の手が、ペットボトルをすり抜ける。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!
 超能力ーーーーーーーーーーっっっ!!!」
 
「いや、そっちの超常現象じゃなくて、心霊の方ですって。」
青年が立ち上がって近付き、ペットボトルを手にした。
 
 
「・・・うそ・・・、私、霊?」
「はい、霊です。」
「じゃ、あなた見えるヒト?」
「はい、ぼく見えるんです。」
 
「へえ、すっごーい、霊感あるんだー!
 私、そういうの全然ないから、興味あるんですよねー。
 どんな感じで見えるんですかあ?」
 
ちょっと呆れる青年。
「・・・あなたにも、もう見えてるんじゃないですか?
 “そっちの世界” に入ってるんだから。」
 
「ええー、私そういうのほんとダメで・・・」
言いながら、青年が指差した方を見たら
血まみれの女性が、部屋の隅に浮かんでいる。
 
 
「いやあああああああああああああっ
 マジ恐ーーーーーーーー!!!
 やめてーーーーーーーーっっっ!!!」
 
叫んだ途端、血まみれ女性がフッと消えた。
 
 
 続く。
 
 
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亡き人 2

「ああ・・・、やっぱりだ。」
感心する青年。
 
「うっわー、すっげえスプラッタでしたねー。
 私、霊、初めて見たから、すんげえビビりましたよー。
 皆あんなんなんですかー?」
 
その能天気さに、とまどう青年。
「・・・ほんと何か色々と驚くなあ。
 今まで来てた霊、全部恐いのばかりだったのに
 あなたみたいな霊、初めてですよ。」
 
「だから、私まで霊扱いにしないで・・・、ん?」
再び青年が指差すので、自分の足元を見る。
「ほらあー、足、あるじゃん、・・・って
 ああっ、浮いてるーーーーーーーーーっっっ!」
 
 
あまりのショックに、フラフラとよろけたら
頭が床をすりぬけて、下の階の部屋の天井から突き出てしまった。
「うわっ!」
慌てて戻ってくる。
 
「下の階、カップ麺の容器とかすげえ散らかってたよー!
 汚部屋! またまた初めて見たけど、あれ、汚部屋!
 下、どんな人が住んでるの?
 って、そんな事はどうでも良くて、私、倒れる事も出来ないのか・・・。
 うそ・・・、ほんとに霊になっちゃってるんだ・・・。」
 
 
ドロドロと陰気臭く落ち込んだが、さっさと立ち直る。
「でも、まあなっちゃったもんはしょうがないよね。
 えーと、どうやったら成仏できるんかな?」
 
「ぼくはただ見えるだけなんで、それはわからないんです。
 すみません・・・。」
 
「あっ、いやいや、あなたのせいじゃないから気にしないで。
 ちょっと浮遊しつつ、何とか模索してみるわ。
 と言っても、これからどこに行けば良いんやら・・・。
 もしかして、世界の観光地とか行けるんかな?
 だったら、まずはちょっくらアルゼンチンに行ってみる。
 お騒がせしてすいませんでしたー。
 じゃ、そういうこってー。」
 
 
「あっ、ちょ・・・」
男性が止める間もなく、壁をすり抜け出て行った。
 
と思ったら、すぐに舞い戻ってきた。
「・・・何か、このあたりから先に行けないみたいなんだけどー。」
「そうなんですか。
 何となくそういう気はしてたんですよね。」
「だよねー、好きなとこに行けるんなら、霊、ウハウハだもんねー。」
 
 
「はああ・・・、私、ここに地縛しちゃってるんかもー。」
落ち込む霊に、青年が申し出をした。
「あのですね、もし良かったらここにいてくれませんか?」
「へ? それはありがたいけど、でも何で?」
 
「ぼく、何か憑いてこられやすいらしくて
 しょっちゅう恐い霊が来るんですよ。
 でもあなたが来たら、さっきの霊、いなくなっちゃったでしょ?
 あなたは恐くないんで、ここにいて守ってくれたらな、と。」
 
「ああ、なるほど、番人ならず番霊ってわけね。
 でも私にそんな力があるんかなあ?」
 
「ぼく、見えると言ってもそんなにはっきりじゃないんですよ。
 でもあなたの事ははっきり見えるし、会話も出来る。
 凄く強い霊じゃないかと思うんです。」
 
「うーん、もしかしたら私たち、何か因縁があるんかも?
 守護霊だったりしてー。」
「それはわかりませんけど・・・。」
ヘラヘラ笑う霊に、少し嫌がる青年。
 
 
「私もどうしたら良いか、よくわかんないしなあ・・・。」
考え込む霊だったが、答はひとつしかない。
 
「うん、成仏できるまで、ここでお世話になるよ。」
「ほんとですか? じゃ、よろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそ。」
 
お互いに頭を下げ合うふたりであった。
 
 
 続く。
 
 
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亡き人 3

「あ、でもさ、見知らぬ男女が同じ部屋で暮らす、って
 色々とマズいんじゃないの?」
「人間と霊だから大丈夫じゃないですか?」
 
「いや、私は良いけど、ほら、若い男の子だから
 ご自愛とかそこらへんとか。」
「余計な心配はしなくて良いです!」
 
怒り出す青年に、霊がつぶやく。
「昨今流行りの “草食系男子” ってやつか、こいつは。」
 
 
「じゃ、あらためて自己紹介しますけど
 ぼくは長野太郎、大学1年生です。」
 
聞いた途端、笑い転げる霊。
「ご、ごめん、でも、長野県の提出書類記入例とかに
 絶対に使われていると思う。
 長野太郎 長野花子 とかー。」
 
「・・・良いですよ・・・、大抵そういう反応をされますから・・・。
 言っときますが、長野出身じゃないですからね。」
「長男でしょ?」
「はい。」
「ヘンな感性の親を持つと苦労だよねー。」
「・・・・・。」
 
 
「で、あなたは?」
太郎の質問に、霊が軽く明るく答える。
「はーい、なーんも覚えていませーん。」
 
「自分の名前もですか?」
「うん。」
「じゃあ、何と呼べば良いんでしょうか?」
「うーん、霊だから “霊” で良いよー。」
 
ノンキにヘラヘラ答える霊に、太郎が怒る。
「良いわけないでしょ!
 それだと他の霊と区別が出来ないじゃないですか。
 何かもっと良い呼び名を考えないと・・・。」
 
 
めんどくさいヤツだなあ、と思ったが
太郎の言う事ももっともなので、テキトーに考えた。
 
「んじゃさ、霊で零でゼロ、ってのは?
 何かそういうゲームがあったと思うんだけど。」
「ゲーム、ですか?
 そんなに古い霊じゃなさそうですね。」
「そうなんかな?」
 
「ええ、言葉遣いを聞いてても、そこまで世代の差を感じないと言うか
 同じ時代を生きてた気がしますよ。
 にしても、何だかあっさりしてますよね?
 その性格で何で成仏しないんでしょうね?
 心残りとか、思い当たる事がありますか?」
 
ちょっと考え込んでみたが、相変わらず何も思い出せない。
「それがまったくないんだよねー。」
「そうなんですか・・・。」
 
 
考え込む太郎に、ふとゼロが思いついて訊いた。
「ね、ちょっと鏡を見せてよ。」
「鏡なら、そこの風呂ですよ。」
「ちっ、これだから男は・・・。
 姿見とは言わんけど、手鏡ぐらい持っとけよ。」
 
ブツブツ言いながらバスルームに行ったゼロが悲鳴を上げた。
「ひいいいいいいいいいいっ!」
 
血相を変えて、部屋に飛び込んで訴える。
「映ってないーーーーーーー!
 私、鏡に映らないーーーーーーー!」
 
「霊なんだから、それは当たり前じゃないかと・・・。」
「ええーーー、自分の姿を見たいーーー!!!
 あっ、写メして、写メ! 携帯で。
 たまに写ってるじゃん、霊、写真とかに。」
 
面倒くさいヒトだなあ・・・
と今度は太郎が思いつつも、携帯を構える。
「念のため数枚ね。 はい、ピース。」
 
カシャッ
 
 
「写ってる?」
「うーん・・・。」
どれも単なる部屋の写真になってしまっていたが
1枚だけ光の玉が写っているのがあった。
 
「何? もしかして、これが私とか?」
「そうみたいですね。」
「オーブとかさ、ホコリの反射じゃねえかい、と思っていたんだけど
 霊の場合もあるんだー? へえー。
 でも、つまんねーーーーーーーー!」
 
 
フテくされるゼロに、おずおずと太郎が言う。
「あの、もう寝ても良いですか?
 明日は朝一から講義があるんですよ。」
 
「待って、あなたには私がどういう姿で見えてるの?」
「ショートヘアの20代の女性ですね。」
「美人?」
「え・・・、よくわからないです・・・。」
 
「そうか、ブサイクなんか・・・。」
「い、いえ、そういう事は・・・。」
「気ぃ遣わんで良い。
 じゃ、寝てよろしい。 おやすみー。」
「はあ・・・、じゃ、お言葉に甘えて寝させてもらいます。」
 
「ああ、金縛らせちゃったらごめんねー。」
「そういうの、ほんとやめてくださいね!」
「冗談だって。 すぐ怒るんだな、太郎はー。」
 
何だか不安だな、と怯えつつ寝たが
その夜はいつになく熟睡できた太郎であった。
 
 
翌日、太郎が目を覚ますと、ゼロが宙で横になって爆睡していた。
霊も寝るんか? と意外だったが、あまりにもグーグー寝ていたので
起こすのも悪くて、そのまま出掛ける事にした。
 
ヘンな霊と関わり合いになったような気がするけど
今のところ害はないし、まあいいか。
 
気楽に考えた太郎だが
それは若さゆえに、ゼロの本質を見抜けないせいであった。
 
 
 続く。
 
 
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      亡き人 1 10.11.17 

亡き人 4

「うお、私、寝てた? 霊も寝るんだー!」
太郎と同じ事で驚くゼロ。
 
あれ? 太郎がいない。
あっ、そうか、大学に行ったんだー。
えー、じゃあ私、どうしようー。
 
TVのスイッチ、むーん むーん
・・・・・無理だ、入れられない。
 
あーーーーーー、ヒマーーーーーーーーーーー!
 
 
窓から外を眺めようとして、ついガラスをすり抜けてしまった。
いかんいかん、どうも加減がわからない。
ん?
 
下を見ると、夕べの血まみれの女性が立っている。
あ、あいつ、まだここらへんにいるー。
怒りが湧いたゼロだが、同時に少し同情心も起こる。
もしかしてあいつも、ここらへんから出られないんかな・・・。
 
 
「おーい、ちょっとこっち来てー。」
血まみれ女性に声を掛けると、女性はフワフワとゼロの近くに寄ってくる。
 
「言葉は通じるんだー?
 ね、あなた何でここにいるの?」
女性は無言のままである。
 
「喋れないんかー?
 うわ、頭、カチ割れてるじゃん!
 私、スプラッタほんと無理なんだよー
 それ、どうにかならない?
 目のやりどころに困るんだよねー。」
女性は無反応でうつむいたままだ。
 
傷が視界に入らないように、手で女性の頭をさえぎると
手の平が微かに発光したような気がした。
「?」
 
手の平を見ても異常はなかったが、女性の頭を見て驚いた。
「ちょ、傷、閉じてるよ!
 え? 何かした? あなた? 私?」
うろたえるゼロに、女性が目を上げた。
 
 
太郎が帰宅し部屋に入ると、ゼロがこたつに座っていた。
「おかえりー。」
その後ろに血まみれ女性も座っている。
「何でまたこの人がここにいるんですか!」
 
太郎の激怒をよそに、ゼロが嬉しそうにまくしたてる。
「ね、ね、ちょっと聞いて。
 私、癒しの天使かも知んない。
 私が手をかざすとね、この人の頭の傷が少し治ったんだよー。
 そんでね、最初は無反応だったのに
 今はちょっとだけど、うなずいたりするようになったんだよ。」
「だからといって、ここに連れて来ないでください!」
 
怒る太郎を意に介さないゼロ。
「だってこの人、この部屋のすぐ外にいたんだよ?
 放っといたら、また太郎に憑くかもよ?
 それより根本を解決した方が良くないー?」
 
「根本?」
「うん、成仏させる、とかさー。
 ほら、何かちょっと浄化された気がしない?」
 
 
太郎は見るのも恐かった血まみれ女性を
初めてマジマジと観察してみた。
 
「いえ、よくは見えないんですけど
 そう言われれば、イヤな感じが薄れてるような・・・?」
「でしょー?
 血まみれちゃん、一緒に頑張ろうね!」
 
「血まみれちゃん?」
「うん、名前がないと不便でしょ。」
ゼロの言葉に、太郎は自分の耳を一瞬疑った。
 
「あなたにうちの親の感性をどうこう言われたくないですね!」
「また、太郎ちゃん、すぐ怒るんだからー。
 そんなんだから霊が引き寄せられるんじゃないのー?」
 
 
太郎はゼロの言葉にショックを受けた。
ぼくの性格が霊を呼んでいるのか?
落ち込む太郎に、ゼロがお気楽に言う。
「ほらほら、そうやってクヨクヨすると、また悪霊が来るよー?」
 
「あなたにぼくの苦悩はわかりません!
 勉強するから、静かにしててください。」
怒りながら、本をドサドサと出す太郎を
ゼロが後ろから覗き込んだ。
 
「今時の大学生にしては感心だねー
 何か目標があるの?」
「弁護士になりたいんです。」
「へえー、しっかりと展望があるんだー。
 そういう事なら応援するよ、頑張ってねー。
 と言っても、茶も淹れてあげられないのが心苦しいけど。」
 
「いえ、ほんと静かにしてくれれば、それで良いですから。」
「んじゃ、血まみれちゃん、私たちは外で話をしようか?」
ゼロは血まみれちゃんを連れて、外へと出て行った。
 
 
ぼくは陰気な人間なんだろうか?
太郎は机の前で、しばらく考え込んだ。
 
 
 続く。
 
 
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      亡き人 1 10.11.17  

亡き人 5

血まみれちゃんも、すっかり馴染んだある日
ゼロが太郎にお願いをした。
 
「ねえ、私も大学に連れて行ってよー。」
「・・・別に良いですけど・・・。」
「わーい! 退屈してたんだよねー。
 血まみれちゃんも来る?」
 
血まみれちゃんは、首を横に振った。
もう、はい いいえ の意思表示ぐらいは出来るようになっていた。
 
 
「んじゃ、血まみれちゃんはお留守番している間に
 何か物を動かす練習をしててよ。
 ポルターガイストとかあるじゃん
 努力したら、飯のいっちょも作れるようになるかもだし。」
 
「幽霊の作ったご飯ですか・・・?」
「だって太郎、バイト先でのまかないばっかりじゃん、ご飯。
 そんな食生活だったら、年取った時に体にガタがくるよー?
 ねえ、血まみれちゃん、そう思わない?」
血まみれちゃん、うなずく。
 
死んでる人に心配されるとは・・・
太郎は複雑な気分になっていた。
 
 
「で、何でおんぶなんですか?」
太郎の背中に、子泣きジジイのように張り付いているゼロが答える。
 
「だって太郎と離れたら、アパートに引き戻されちゃうかも知れないじゃん。
 それより、他の人には私は見えてないんだから
 話しかけたりしたら、ひとり言を言ってる危ない人に思われるよ。
 私は勝手に喋るけど、太郎は気を付けないと。」
 
これじゃ本当に取り憑かれているみたいだ・・・
太郎はゼロを連れて来た事を、少し後悔していた。
 
 
教室での講義中、大人しく子泣きジジってたゼロが声を掛けた。
「ねえ、さっきっから、すんげえ目が合うヤツがいるんだけど・・・。」
え? と、あたりを見回すと、遠くに座っている男性が
確かにこっちをチラチラ見ている。
 
「あの金髪のチャラ男、私をガン見してるんだよねー。
 もしかして私が見えるんじゃないの?」
 
その男性は同じ学年ではあるが、華やかなグループにいて
地味で真面目な太郎とは、ほとんど接点はない。
その彼が太郎を見るのは、確かにおかしい。
ゼロさんの事が見えてたらイヤだな、と太郎は思った。
 
 
案の定、講義が終わった直後、太郎にチャラ男が駆け寄ってきた。
「えーと、俺、山口っつんだけど、おまえ何て言うんだっけ?」
「長野です。」
「あ、そう、長野、おまえ体調悪くねえ?」
 
太郎が動揺していると、ゼロが余計な口出しをした。
「私が太郎に悪さなんか、するわけねえじゃん。
 ふざけた事ぬかしてると、おめえに祟るぞ、このチャラ男!」
 
「喋った!」
山口がゼロの恫喝に驚愕した。
 
「え? 山口くん、もしかしてゼロさんが見えるの?」
「ゼロ? この女? 見える見える。 こいつ霊だよ。
 俺、昔っからそういうのに敏感でさー。」
「呼び捨てにしてんじゃねえぞ、呪うぞ、この野郎!」
「おー、凄えー! 何? こいつ、おまえの守護霊?」
 
説明するのも面倒なので、太郎は適当に答えた。
「う・・・ん、まあ、そんなもんかな?」
 
 
その時、仲間であろう女の子が山口を呼んだ。
「何やってんのー?」
「あ、今行く。」
 
山口の返事に、ゼロが止める。
「あっ、ちょお待って!
 敏感っちゅう事は、私を写真に撮れるかも!!!
 ちょっと携帯で写してみてくれない?」
「いいっすよー。」
 
チャラ男はストラップがジャラジャラついたデコ携帯で太郎を撮った。
「見せて見せて。」
画面には、白い光のようなモヤが掛かっている。
 
「地味な心霊写真だなあ・・・。
 チャラ男、やっぱ使えんヤツだったな。
 もう行ってよし。」
 
「うわ、勝手な女だなあ。
 長野、おまえも大変だな、ま、頑張れよ。」
チャラ男は仲間のところに戻っていった。
 
 
「見たところ、遊び好きの派手グループってとこか。
 太郎とは世界が違うヤツだな。
 意外なヤツが私を見つけたねえ。」
「うん・・・。」
 
元気なく答える太郎に、ゼロが無神経に聞く。
「そういや、太郎、友達とかいないの?」
「バイト仲間とかはいるけど・・・
 ぼく、忙しいし、あんまり遊べないんです。」
 
自分に言い聞かせるように答える太郎に
ゼロはうんうん、と偉そうに相槌を打つ。
「うむ。 友人は選んだ方がいいから、それは正解だな。」
 
太郎はその意外な言葉に、ちょっと気持ちが弾んだ。
「そうかな?」
 
「太郎も社会に出たら、私の言ってる意味がわかるよ。
 大丈夫、おめえの道は間違ってないから。」
「おめえ・・・?」
「おっと、すまんのお、どうもどんどん地が出てきてるみたいだわ。」
 
 
この人は生前、一体どんな人だったんだろう?
太郎は疑問が増える一方だった。
 
でも、ぼくのやってる事は間違ってはいないんだ
ゼロの言葉に元気付けられ、それだけでも一緒にいて良かった
と、単純に嬉しくなった太郎だった。
 
 
 続く 
 
 
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      亡き人 1 10.11.17 

亡き人 6

「ねえ、何か飽きたんだけどー。」
太郎の背中でゼロがゴネ始めた。
 
「そんな事を言われても、まだ講義がありますし
 その後はバイトに行かなきゃいけないんですから。」
「うーん、ガッコの授業、ほんと退屈ー。
 スーパーの前に繋がれている犬の気持ちがわかるわー。」
 
ゼロが太郎の背中でユサユサ揺れる。
「もう・・・、我がまま言わないでくださいよ。
 ついて来たがったのはゼロさんでしょう。」
 
「だって何も出来ないって、地獄なんだよー?
 コントローラーでも握れるなら、太郎にWiiを買わせるのにー。」
「・・・握れなくて、ほんと良かったですよ・・・。」
 
 
「よし、ちょっと冒険してみるわ。
 私、太郎から離れて浮遊してみる。」
ゼロが太郎の背中から離れた。
「え、そんな事をして大丈夫ですか?」
 
「わからない。
 もし今夜アパートに戻ってなかったら、成仏を祈ってくれ。
 それでは、さらばだー。」
「ちょ、待・・・」
 
太郎の静止も聞かずに、ゼロは窓の外に出て行った。
まったく、ほんとに自分勝手なんだから・・・
でも大丈夫かな、何かあったらどうすれば良いんだろう
太郎は、死んだ人の心配をしている自分に気付いていない。
 
 
ゼロは大学の構内をフワフワとさまよっていた。
おおー、自由に動けるじゃん
これならアルゼンチンにも行けるかもー
 
ああっ!
 
次の瞬間、ゼロは太郎の鼻っ面の先にいた。
動揺を必死に抑えつつ、太郎が
何やってるんですか、とノートに書く。
講義中なので声が出せないのだ。
 
 
「いやね、結構フラフラ出来たんだけど
 アルゼンチンに行こうとすると、引き戻されるみたいなんだよ。」
 
何でアルゼンチンなんですか?
「ナチスの残党が作った村、っちゅうのがあるという噂があってさ
 そこでは、高度な技術を使って飛行物体を作ってて
 それが宇宙船、つまりUFOに間違われているという説も・・・」
 
もういいですから、勉強の邪魔をしないでください
「あ、ごめんね。
 じゃあ、アパートまでブラブラ帰ってみるわ。
 迷子になった時には、アルゼンチンに行こうとしたら
 太郎のとこに戻れるとわかったし。」
 
はい、気をつけてくださいね
「うん、太郎もしっかり勉学に励めよー、じゃっ。」
 
 
で、窓から出て行くかと思いきや
ゼロは講義をしている教授の隣にいって
幽霊の定番のヒュードロドロのポーズをとった。
 
それどころか、こともあろうに教授の回りで
お笑い芸のズグダンズンブングンまでやり始めた。
ネタの選択が微妙に古いのが、何とも言えない。
 
太郎が血相を変えて睨むと、すんません、と拝みながら
やっとヘコヘコと窓から出て行ったゼロ。
太郎は、はあー、と頭を抱えた。
 
 
ふと見ると、山口がこっちを見て腹を押さえて笑いをかみ殺している。
太郎もつい、すまん、と拝んでしまった。
 
まったくゼロさんのせいで、何でぼくまで・・・
イライラしながら、さっき書いたゼロへの言葉を消した。
 
 
 続く。
 
 
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      亡き人 1 10.11.17  

亡き人 7

太郎の憤慨をよそに、ゼロはフラフラと飛んでいた。
えーと、ここまで電車1本だったよな?
この駅から何個目だったっけ?
どう考えても、飛ぶより電車の方が早いよな?
乗っちゃえ乗っちゃえー。
 
うお、ホーム、霊いっぱいーーーーーーー!
・・・駅って、こんなんだったんだー
霊感ある人、通勤通学大変なんだろうなあ。
あ、ドア閉まった、待ってーーーーー。
 
走り出している電車にすり抜けて入ったゼロの体を
電車がサーッとすり抜けて行った。
 
 
え? え? うそ、電車乗れないのー?
線路の上にポツンとひとり浮くゼロ。
 
いや、そんなはずはない!
さっき、霊っぽいのが電車の中に立ってたもん。
順番守ってドアから入って、気合いを入れて乗ればイケるはず。
 
 
次の電車を待つ間、何度も繰り返し電車に飛び込むシーンを再現する霊とか
延々と見せられて、ゲンナリさせられる。
 
自殺ってのはマジで浮かばれないんだな・・・
太郎にもよく言って聞かせとかないと。
自分も浮かばれていない霊なのに、他人事のように思うゼロ。
 
 
結局、普通には電車に乗れず
知らない人の体にしがみついて乗って
やっと最寄り駅までたどり着いたゼロであった。
 
何か、憑ける人と憑けない人がいるみたいだ。
どんな違いなんだろう?
いかにも人生にくたびれて絶望してそうなオヤジには憑けなかったし
性格うんぬんの問題じゃないような気がするなあ。
 
 
ゼロがくっついたのは、ケバやかな若い女性で
電車に乗っている間中、携帯メールを打っていた。
 
ふーん、今時の若者のメールはひとことの応酬なんだー。
ほんとに会話してるのと一緒なんだな。
某巨大掲示板で、5行で “長文乙” とか
あおられる理由がわかったわ。
 
とりあえず電車内のマナーについては何も言わんよ
こっちも、とり憑いて無賃乗車してる分際だし。
おねえちゃん、どうもありがとう、ご健勝である事を祈っとくよー。
 
さて、こっからの道順がやっかいなんだよな・・・。
ゼロは駅前で既に迷っていた。
 
 
太郎が駅に着いたのは、夜の10時を過ぎていた。
「ああーーー、やっと帰って来たーーーーー!
 待ってたんだよーーーーーーーーーー!!!」
聞き覚えのある声にギョッとして、見上げるとゼロが浮いている。
 
「迎えに来てくれたんですか?」
「違うー、昼間からずっとここにいたんだよー。
 こっからの道順がわからなくてさー。」
 
太郎は思わず腕時計を見た。
「ええ? 8時間ぐらい経ってますよ?」
「うん・・・
 アルゼンチン経由で太郎のとこに戻ろうかとも思ったんだけど
 何か、あんまり迷惑を掛けるのも何だかなー、と思ってさ。」
 
 
珍しく気を遣うゼロに、太郎はついほだされた。
「そんな、迷惑なんかじゃないですよ。
 気を遣わないでくださいよ、ゼロさんらしくないじゃないですか。」
 
その言葉に、ゼロが一気に調子づく。
「そうお? じゃ、これからもよろしくお願いねー。」
太郎は自分の言葉を素早く後悔した。
 
「あっ、ほどほどに頼みますね?」
「わかってるってー。
 私、こう見えても和を尊ぶ人なんだからー。」
 
絶対それは思い違いだ! 太郎は心の中で叫んだ。
 
 
 続く。
 
 
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      亡き人 1 10.11.17  

亡き人 8

ゼロが喋りまくり、血まみれちゃんがうなずく
そんないつもの光景を繰り広げているところに、太郎が帰ってきた。
 
「ただいま。」
「あ、おかえりー、・・・って・・・。」
ゼロが不審な表情になった。
 
「何ですか?」
「太郎ーーー、いっつもいらん霊を連れてくるな、って言ってるくせに
 自分は浮気してんのかよ?」
 
「え? 何なんですか?」
太郎が、またこいつは訳のわからん事を・・・と思いつつ
バッグを床に置いて、着替え始めた。
 
 
「気付いてないの?
 憑いてきてるよ、後ろ。」
「えっ?」
慌てて振り返る太郎。
 
何も見えないのだが、そう言われると何となくイヤな雰囲気がする。
血まみれちゃんは部屋の隅にうずくまり、震えている。
 
 
「出てけっ!!!」
ゼロの一喝で、急に空気が澄んだ気がした。
「憑いてきてたんですか?
 気付かなかった・・・。
 そういやバイトの途中から寒気がしてたんだけど、あの時からかなあ?」
 
「太郎、ほんと憑かれやすいんだからー。」
ケタケタ笑うゼロだが、太郎は笑い事じゃない、と思った。
急に体が疲れたりする事もあったし
きっと今までも、こうやって知らずに憑かれていたのかも知れない。
 
普段は騒がしく、うっとうしいだけだが
こういう時にはゼロさんがいてくれて良かった、と思う太郎だった。
 
 
「バイト、憑いて来てくれませんか?」
太郎のお願いを、ゼロはあっさり断った。
「いや。 今日は寒いもん。」
 
「寒い・・・んですか?」
「うん、寒い。
 何で心霊話が夏の特番なんか、よくわかったよ。
 冬場は寒くて、霊、出たくないんだよ。」
「え、そうなんですかね?」
 
「絶対そうだって!
 基本うちら死んだ時の服装なわけじゃん。
 真冬にノースリーブとか、やってらんねえ、って感じ。」
 
そういうゼロの服装は、長袖Tシャツにジーンズである。
「ゼロさん、長袖じゃないですか。」
「コートがないとイヤ!」
 
あーもう、どうにも出来ない事で我がままを言われても・・・。
太郎はしょうがないので、ひとりで出掛けて行った。
バイト先には、夕べの霊がいるかも知れないので
今日はゼロに一緒にいてほしかったのだが。
 
 
「そんでね、ナパーム弾ってのは焼夷弾の事で
 有名になったのはベトナム戦争での話からだけど
 実際の歴史はもっと古くて・・・」
 
血まみれちゃんに、霊には何の役にもたたない熱弁をふるっていたゼロが
一瞬、あっ・・・ と、つぶやいた。
次の瞬間ゼロの姿が消え、血まみれちゃんはすごく動揺させられた。
 
 
その “次の瞬間” には、ゼロは居酒屋にいた。
何? ここ
目をパチクリさせてとまどっていると、後ろで声がした。
「あっ、ゼロさん?」
振り返ると、太郎がいる。
 
「・・・・・?
 私、何でここにいるんだろう?
 アルゼンチンに行こうとしてたわけじゃないのに。」
「あ・・・、すいません
 多分ぼくが呼んだんだと思います。」
 
更衣室にいたら、ドアのところに霊らしきものが出て
とっさに 助けて! と思ったらしい。
 
「もしかして、最初の血まみれちゃんの時もそう思った?」
「あ、そうかも知れないです。」
ハッとする太郎に、ゼロが首を振る。
 
「太郎ー・・・、霊に遭った時に弱腰じゃダメだよ。
 そんなんだから付け込まれるんだよ。
 ま、いいや、その更衣室に案内して。」
 
 
「ここなんです。」
「どれどれ。」
 
中に入ると、中年男性がふたりいた。
「店長とエリアマネージャーの人です。」
太郎が小声でコソッと言う。
 
「何か用かね?」
店長が太郎に問う。
「あ、いえ、その・・・。」
 
太郎がどう言い訳をしようか迷っていると、ゼロが言った。
「ね、こっちのおっさんと、やたら目が合うんだけど。」
 
こっちのおっさん呼ばわりされたエリアマネージャーの
驚きを見て、ゼロが確信した。
「ああー、やっぱこの人、私が見えてるわー。
 こんばんはー。 いつも太郎がお世話になっておりますー。」
 
 
深々と頭を下げるゼロに、エリアマネージャーがおそるおそる訊ねる。
「この女性は誰なんだ?」
「えーと、ショートヘアの20代女性なら
 その・・・、ぼくの守護霊みたいなものなんです・・・。」
  
「ゼロでーす。 よろしくお願いいたしまーす。」
ゼロがえらくドデカい猫をかぶる。
 
「じゃ、最近のここでの不可思議な出来事はこの人のせいなのか?」
「私じゃねーよ!」
 
即座に猫を投げ捨てたゼロを押し留めながら、太郎が慌てて言う。
「いえ、さっきぼくがここにいたらイヤな気配がしたので
 それを察して助けてに来てくれたみたいなんです。」
 
「じゃ、この人ならここにいる霊を追い払えるのか?」
エリアマネージャーの表情に、期待が浮かぶ。
 
 
 続く。
 
 
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亡き人 9

「うーん、ゴリ押しなら得意だけど
 よく言うじゃん、水商売のところには霊が集まりやすいって。
 今いるのを追い払っても、また次のが来るんじゃない?
 専門家にお祓いをしてもらった方が良いかもー。」
 
ゼロがのんきに答えると
ガッカリしたエリアマネージャーが、首を振った。
 
「もう、全店舗してもらったんだよ・・・。
 だけどこうやって時々、怪奇が起きるんだ。
 我々の業界では、仕方のない事だと受け止めてはいるんだが
 たまに客足に影響を及ぼすので、良い対策が必要なんだ。」
 
 
店長が口を挟む。
「お話し中、申し訳ありませんが、誰と喋っておられるんですか?」
 
エリアマネージャーは店長に言った。
「きみには見えていないだろうけど
 ここに彼の守護霊だと言う人がいるんだよ。」
 
「はあ・・・。」
店長は困った顔をした。
 
 
「この人、絶対にあなたの事をキ○ガイだと思ってるよー。
 見えない人って、大抵そういう反応をするらしいし。」
「ゼロさん!」
 
太郎が慌てて止めると、エリアマネージャーが嘆いた。
「私だって、見えなければそう思うと思うよ。
 こういう能力を持っているのは、本当に辛いんだ。」
 
「でも逆に、その能力があるからこそ
 他の人には分からない解決法を示せて、出世できたんじゃないの?」
「ゼロさん!」
 
再び慌てて止める太郎に、エリアマネージャーが言う。
「いや、良いんだよ。 確かにそうなんだから。」
 
「ヘンな霊がいると、見えない人でも違和感を感じて
 寄り付かなくなる事って、ありえるもんね。
 人材やお客がそれで減ると、死活問題だよねえ。」
 
「そうなんだよーーー。」
エリアマネージャーとゼロは腕組みをしつつ、うなずき合った。
 
 
「ところで、きみにはここの状態はどう見えるんだね?」
「んーーーっと、コソコソしたヤツらが3体いる。」
「3体? 私には1つしか見えないんだが。」
 
「何か強いのが1つ居ついていて、他のを呼び寄せているみたいな感じ?
 よく聞くパターンよね。
 お祓いだけじゃなく
 結界みたいなもんを張る必要があるんじゃないかと思う。」
 
ゼロの言葉に、エリアマネージャーは考え込んだ。
「どうも、その必要があるみたいだな・・・。」
 
 
「解決したんなら、私は帰るよー。」
帰ろうとしたゼロを、エリアマネージャーが慌てて呼び止める。
「ちょっと待ってくれ。」
 
「何?」
「実はあと数店舗、不審なところがあるんだ。
 私にはそこまで見えないので、一緒に来て見てくれないか?」
 
 
「えええーーー? 霊の身分になってまで働きたくないーーー。」
 
渋るゼロに、エリアマネージャーが太郎の方に提案した。
「特別手当を出すから、そういう仕事の時には
 きみ、助手として一緒に来てくれないか?」
 
「えっ、特別手当ですか?」
太郎はゼロの顔を仰ぎ見た。
 
「・・・さすがエリアマネージャー
 その肩書きはダテじゃないヤリ手よねえ。」
イヤミを言いつつ、ゼロは渋々と承諾した。
 
「太郎には迷惑を掛けているし
 宿代ぐらい工面しろ、って事かあ・・・。」
 
 
 続く。
 
 
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亡き人 10

「ただいまー、ゼロさんいるー?」
帰ってきた太郎の後ろから、山口が顔を覗かせた。
「ちぃーっす。」
 
「太郎ーーー、霊だけじゃなく、息してるクズまで連れ込むんか?」
「何? その容赦ない評価。 ひっでーーー!」
山口が怒る横で、太郎が困ったように説明をする。
 
「いや、何かゼロさんにお願いがあるらしくて・・・。」
「ほーら、出会ってすぐに頼み事だよ。
 ほんとチャラ男のするこって。」
 
 
「勘弁してくださいよー、俺マジで今、窮地なんすよー。」
そっぽを向いて鼻をほじるゼロに動揺しつつ、代わりに太郎が訊く。
「何かあったの?」
 
「うん、ゼロさんが大学に来た日があったろ?
 あの日から俺、仲間にハブられてんだよ。」
「え、どうして?」
 
「あの後、仲間に長野と何を話してたのか訊かれて
 俺、正直に言ったんだよ、長野の守護霊が来てた、って。
 そしたらウソ付き呼ばわりされてさ。」
 
太郎があらら、という顔をし、ゼロはフンッと鼻で笑った。
「だから俺、ゼロさんが本当にいる、と証明したくてさ。
 写真、撮らせてくんねえ?」
 
ゼロが、はあ? という顔をしつつ突っ込んだ。
「そんでおめえ、私の写真が撮れたとして、それでどうするわけ?」
「だから、その写真でウソじゃないと証明して・・・」
 
「また仲間に入れてくれ、ってかー?
 アッホじゃないのーーー?」
 
 
ゼロが、正に容赦なく畳み込んだ。
「おめえさ、仲間といて騒いで楽しい、って日々だったんだろ?
 それは良いよ、楽しい事は良い事だからな。
 でも自分が理解出来ない、ってだけで仲間外れなんだろ?
 そういうヤツらとは、未来のない関係なわけじゃん。
 人は皆同じじゃないんだから、必ず理解し合えない事が起こるぜ?
 ダラダラ付き合って、何年もムダにするより
 今の内に離れた方が、傷が浅いと思うぞー。
 良かったじゃん、早くにわかって別れられてさ。
 今度はもちっとマトモなヤツと付き合えよ。」
 
「マトモって、どんなヤツだよ?」
「そりゃ、うちの太郎みたいなヤツさ。」
今度は太郎が、はあ? という顔をしてゼロを見た。
 
 
「おめえの今までの仲間ってさ、学生ん時は華やかでも
 社会に出たらペーペーの新人で、実績もなく埋もれるのさ。
 そんで日々のルーティンワークで、お互い疎遠になって
 久々に会おうって言われたら、大抵マルチか宗教の勧誘なんだよ。
 何の役にも立たねえどころか、大迷惑を掛けられるわけさ。」
ゼロのあまりの極論に、太郎はあっけに取られた。
 
「その点こういう真面目くんは、つきまとわない裏切らない面倒見が良い
 三拍子揃った理想的な友人になれるんだよ。
 その上に太郎はな、弁護士志望なんだぞ。
 社会に出た時に、特殊資格のあるヤツはすんげえ役に立つぞ。
 いいか、よく覚えておけ。
 社会に出てからチヤホヤされるのはなあ
 学生ん時とは比べものにならないぐらいに気分良いぞおーーー?」
 
 
悪魔のような顔をして、ヘッヘッと笑いながら言うゼロに
山口はつい洗脳されてしまった。
「そうか、長野、俺と友達になってくれ!」
 
え? と、固まる太郎の背後からゼロが即断する。
「はい、太郎ちゃんはダメー。」
「え、何で?」
驚く山口。
 
「バカチャラ男ーーー、私の言った事を聞いてたか?
 太郎は理想的な友人だけど、おめえは太郎にとってどうなんだよ?
 太郎はな、勉強とバイトで大変なんだよ、邪魔すんな。
 真っ当になる事が出来てから、出直してこい!」
 
「あ・・・、そっか・・・。
 俺も長野にとって良い友人にならなきゃだよな・・・。
 でも、俺、ひとりは寂しいよ・・・。」
 
その言葉に血まみれちゃんが、ピクッと反応した。
ゼロがそれを見て、ちょっとほだされる。
 
「・・・しょうがねえなあ、よし、サービスしたるわ。
 あのな、良い方法があるんだ。
 私、教室でブクブクズンズンを踊ったろ?
 あの時にな、すんげえ驚いていたヤツが数人いたんだよ。
 そいつらには私が見えてたと思う。
 そこでな・・・」
 
 
ゼロにヒソヒソと案を授けられた山口は、喜んで帰って行った。
わからない展開に唖然としている太郎に、ゼロが言う。
「あの山口とかいうヤツ、あいつ案外、良いヤツっぽいぞ。」
「何でそう思うんですか?」
 
「教室でのあいつの最初の言葉、覚えてる?
 嘲笑でも好奇心でもなく、太郎の体調を案じていたろ?
 それに太郎の名前が長野太郎だって知っても、からかわなかったじゃん。
 仲間の質問にも本当の事を言ってるしさ
 あいつ、育ちの良い素直なヤツだと思うぞ。
 自然に気遣いが出来るヤツって、良い友人になれるんじゃないか?」
 
 
ゼロの言葉に太郎が憮然として答えた。
「友達なんていなくても良い、って言ってたくせに・・・。」
「無理に作ろうとする必要はない、って事だよ。
 ついてきた縁まで断ち切るのはもったいなくねえ?」
 
「縁?」
「そう、縁。
 血まみれちゃんや私とのような、な。」
 
ゼロはニヤッと笑った。
 
 
 続く。
 
 
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