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ジャンル・やかた Archive

ジャンル・やかた 71

皆の顔を見てオドオドするアッシュに、老紳士が声を掛けた。
「それで、もう大丈夫なのかね?」
「え? 何がですかー?」
 
アッシュの間抜けな聞き返しに苦笑する。
「きみの体調がだよ。」
「あっ、ああ、すいませんー。
 もう気持ち的には大丈夫ですー。」
「そうかね、それは良かった。」
 
老紳士はそう答えたが、アッシュの右目が見えなくなっている事と
それがローズの死の真相を知ったことへのショックなのは
メンバーの全員が知っていた。
情報源は、もちろんジジイである。
 
 
「えっとー、それでですねー、言いたい事があるんですが
 遠慮なく言って良いですかねー?」
 
ジジイが茶々を入れる。
「あんたが遠慮した事があるかいな?」
「うっせー、ジジイ、黙れー、死ねー!」
アッシュがジジイの耳元で、ドスの利いた小声で言う。
 
ジジイが指をくわえて気色悪くスネるのを無視して、アッシュが続けた。
「寝込んだのは申し訳なかったし、お見舞いも本当に嬉しかったのですが
 皆さんがやるべき事は、他にあったんじゃないか?
 と、言いたいのですー。」
 
「それはどういう意味だね?」
太っちょ紳士がいぶかしげに訊ねる。
「今回の事で皆わかったはずですー。 次の主を用意しとくべきだとー。
 皆さんは、その人物を捜すべきだったんですー。」
 
 
メンバー全員が考え込んだ。
「確かにそれは正論だが、きみは生きてるわけだし・・・。」
「そのお気持ちは本当に嬉しいんですが、死んでからじゃ遅いんですー。
 “次” を用意しとかないと、せっかくの改革が中断してしまいますー。」
 
「うーん、だが正直言って、きみに匹敵する人材がいないのだよ。」
太っちょ紳士の意見にリオンが賛同した。
「そうでーす、アッシュさん以外におられませーん。」
 
「おめえはだーっとれー!」
リオンに一喝して、アッシュは言い切った。
「いないなら作れば良いんですー。」
 
 
その言葉の意味がわからず、皆は はあ? という顔をした。
「相続戦はもうやらない事にしたでしょー?
 だから、子供を連れてきて育てれば良いんですー。」
 
「「「どっから?」」」
数人が揃って同時に叫んだ。
 
「某国か某々国あたりからですよー。
 そこならラクに子供をさらってこられるでしょー。」
「さらうって・・・。」
「ま、さらうってのは半分冗談ですけど
 そこらへんなら子供を買えますよねー。」
 
半分かい、冗談は! とジジイは突っ込みたかったが
連続の死ね攻撃は老体には堪えるので、大人しく黙っていた。
 
 
「しかしそういう子は、国籍とかの面倒があるし・・・。」
メンバーの渋りに、アッシュは自分を指差した。
 
「「「「「え・・・・・? あっっっ!!!!!!!」」」」」
「き、きみ、国籍はどうなっとるんだね?」
 
ふっ・・・、とほくそ笑んで、アッシュは平然と答えた。
「パスポートはとっくに失効してるはずですよー。
 私、多分、行方不明扱いですー。」
 
ああああああああああああああ と、全員が頭を抱えた。 リオンを除いて。
リオンは状況がわかっているのか、アッシュの妙な言動にも動じていない。
 
アッシュは皆 (マイナスひとり) の苦悩を、サラリと流した。
「何を悩む事があるんですー?
 不祥事があったら、余計に私のせいにしやすいじゃないですかー。」
 
また、無謀なプラス思考を・・・と、ジジイは突っ込みたかったが
連続の死ね攻 以下略。
 
 
「ふむ・・・、きみの国籍問題は改めて考えるとして
 その跡継ぎの子供というのを、どうやって選ぶんだね?」
 
「ダ○イラマの逆バージョンでいこうと思うんですー。
 つまり、私が “導かれて” いくんですー。
 今後の主交代はそれで行けば、余計な血も流れないし
 子供の内から側にいたら、ラクに主のやり方を学ばせられますよー。」
 
「なるほど! それは良い方法かも知れない!」
威圧的な紳士が、賛同した。
 
まったく突飛な事を考えるものだが
だからこそ、あそこまで館を生まれ変わらせられたのかも知れない
他のメンバーもそう思った。
 
しばしの議論の後、出た結論は賛同だった。
「わかった。 その方法で行こう。」
 
 
メンバーの承認を得たアッシュは、早速席を立った。
「では、探しに行きますので
 どこの国でも良いですから、その地元に詳しい
 知的イケメンガイドをお供にひとりお願いしますー。」
 
「ち・・・知的イケメンじゃないとダメなのかね?」
「はい。 私の右目も知的イケメンなら見えるかもー? ってね。 あはは」
それ以上にない気まずいギャグである。
アッシュは卑怯者であった。
 
「ど・・・どんなタイプかね?」
おそるおそる訊くメンバーに、難題をサラリと言い放つアッシュ。
「んー、欧米人だと、私の “知的” 定義からはちと外れるけど
 若い頃のジェームス・スペイダーか
 少年時のエドワード・ファーロング似で何とぞー。」
 
 
「誰ですって?」
「多分ハリウッドの俳優じゃないかね?」
 
メンバー全員が困り果てたところに、追い討ちを掛ける。
「あっ、そうそうー、私の偽造パスポート、よろしくー。」
 
「「「偽造かね!」」」
 
「だって私が今更、日本大使館に行ったらヤバい事になるかもですよー。
 それに善は急げと言うし、偽造が手っ取り早いでしょうー。」
“善” かのお、とジジイは突っ込 以下略。
 
「何もきみが行く必要もないんじゃないのかね?」
無個性紳士が反対した。
「この計画だと、私じゃないと真実味半減でしょーがー。
 何せ、逆ダ○イラマですよー?」
「ううむ・・・、しょうがない・・・かなあ?」
無個性紳士は、あっさりと言いくるめられた。
 
「皆さんの地位と権力なら、ラクショーでしょー?
 それに私もここのパスポートがあったら
 今後何かの時に助かるかも知れませんしねー。
 あっ、もちろん今回の旅の後には
 偽造パスポートは長老会に返しますから、悪用の心配はありませんよー。
 ガイドも、私の監視役の意味も兼ねて選んでくださいねー。
 知・的・イ・ケ・メ・ン をー。」
 
 
言いたい放題のあげく、ドアの手前で振り返ってまだ言う。
「それとですねー。」
まだ何かあるんか! と、全員が殺気立った。
 
「皆さんも跡継ぎはちゃんとしといてくださいねー。
 余計なお世話でしょうけど、館の存続に大きく関わってきますからー。」
 
その言葉にリオンが挙手して叫んだ。
「うちはだいじょぶでーす。
 跡を継ぐために、父の仕事には全部参加し始めたんでーす。」
 
リオンが示す人物を見て、アッシュは驚愕した。
「えっ? このダンディー紳士がおめえの父ちゃんーーー?」
 
そうでーす、と満面の笑みで答えるリオンの肉付きの良い肩を
ポフンポフンと叩きながら、アッシュが半笑いで言う。
 
「その気になりゃ、あなたの未来は明るいかも知れないんだよー?」
「はーい? 何でーすかあ???」
 
リオンは本当にわからないようだったが
その場の彼以外の全員が、アッシュの言葉の意味を理解していた。
 
 
続く。
 
 
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      ジャンル・やかた 1 09.6.15
 
     
そしてみんなの苦難 1 11.5.16

ジャンル・やかた 72

跡継ぎ探しに旅立ってから、わずか4日でアッシュは帰ってきた。
漆黒の肌と土色の瞳の男児を連れて。
 
「はい、これお土産ですー。」
と、真剣に家に置きたくない木彫りの人形を、長老会メンバーに配った。
 
「これは、何なのかね?」
「何か良い味出してませんー? 手彫りらしいですよー。
 よくわからないけど、何かの呪いの儀式に使うものらしいですー。」
ああ・・・やっぱり・・・、とメンバー全員がとことん気落ちする。
リオンを除いて。
 
 
「にしても、えらく早いご帰還でしたねえ。」
メンバーのひとりが言うと、アッシュのスイッチが入った。
 
「だって、ひどい場所だったんですよー!!!
 昼は暑いしー夜は寒いしー汚いしー臭いしー飯は不味いしー生水ヤバいしー
 ホテルは古いしー設備は悪いしーサービスは悪いしー
 シャワーの出は悪いしーお湯が水だしー・・・」
 
「よその国を、よくそこまで悪く言うのお。」
ジジイがアッシュのグチをさえぎった。
 
「きみは差別主義者かね?」
かっぷくの良い紳士が追求する。
「顔や腹ん中が汚いのは、私も人の事を言えないですけど
 とにかく外側が汚いのが、ほんっっっとイヤなんですー!!!」
 
「ニッポン人は清潔なんでーす。
 不潔なのが許せないんでーす。 ね?」
リオンが解説した。
 
「そうーーー!!!
 良い事言うじゃんー、死にキャラー!」
「え? 何でーすか?」
「あー、いえー、何でもないですー。」
 
(ネタバレ注意解説: 某ゲームのリオンというキャラは途中で死ぬ)
 
 
「で、その子が跡継ぎかね? 何を基準に選んだんだね?」
「ああ、付いて来たんで、連れて来たんですー。」
「・・・え? それだけかね?」
 
「リアル生活にそんな妙な霊感とかを期待しないでくださいー。
 現実なんて、そんなもんですよー。
 教育すれば良いんですー。
 と、言う事で、教育係の派遣よろー。」
 
はあああああああああ・・・・・、と全員が溜め息を付いた。
リオンを除いて。
 
 
「その子は何歳かね?」
「名前は何だね?」
「英語は喋れるのかね?」
質問が相次ぐ。
 
「書類上は5歳ってなってますねー。
 名前はグリスだそうですー。
 英語は喋れないようですー。」
 
「書類上ねえ・・・。」
「もう詳しい経緯を訊くのは止めときましょうよ・・・。」
ニコニコとグリスを見つめているリオン以外は、そう示し合わせた。
 
 
では、このへんで、と会議室を出ようとするアッシュに
ジジイがいらん事を訊いた。
「お供は知的イケメンじゃったか?」
 
ドアレバーに描けた手をピクッと止め、横目でチラッと見て
無表情のままひとことだけ言って、アッシュは部屋を出て行った。
 
「・・・・・・軍人でしたー・・・・・・・。」
 
長老会メンバーは、一斉にジジイを睨んだ。
リオンを除いて。
 
 
続く。
 
 
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      ジャンル・やかた 1 09.6.15

ジャンル・やかた 73

グリスの寝室は、アッシュとは離された。
隣のローズの部屋は、封印されたままだった。
その理由をアッシュは、こう主張した。
 
「もし爆弾でも撃ち込まれたら、ふたりとも死ぬじゃないですかー。
 そしたら私の代わりまでいなくなるんですよー。」
 
本当の理由はそうじゃない、と誰もが思ったが
アッシュの意見も、もっともだったので
グリスの寝室は中庭を挟んだ反対側になった。
 
 
アッシュはグリスに自ら関わろうとはしなかったが
彼が来てから、明らかに雰囲気が変わった。
大人は子供の手本であらねばならない、という
アッシュの信条の元に、一応の努力をしているからである。
 
アッシュは子供が大嫌いであったが、それは子供と同等に張り合うからで
まさに “大人気ない” の標本のようなヤツだが
それでもアッシュなりに、子供のために頑張ろうとはしていた。
 
だが如何せん大人気ないのを自覚しているので
うかつに子供の心に傷を付けまい、と
なるべく距離を置いていたのである。
 
 
アッシュは館の改革を熱心に続けた。
住人たちの心は、いまやすっかり落ち着き
新たに館にやってくる者の面倒も、ちゃんと見る。
 
やさぐれて来た者が、どんどん更生していくのも
住人たちの生き甲斐になっていた。
 
館はすっかり安定していた。
今後の改革はグリスに引き継がせれば良いけど
出来るだけ経済を潤わせとかないと。
先立つものがないとどうにも出来ないし、貧乏は心がすさむもんね。
 
そう思いつつも、アッシュの心はどこか上の空だった。
自分がどうなろうが館がどうなろうが、実はどうでも良い
そういう気持ちが心の隅に隠れていた。
これはアッシュ自身も気付いていない刹那だった。
 
 
そういう気持ちがあるせいか、ボーッと窓の外を見るアッシュの姿は
時折薄くぼやけて見える時があった。
 
“影が薄い” って、こういう事なのかしら?
リリーは、突然アッシュがいなくなりそうな不安に駆られるようになった。
 
アッシュのその状態を、歓迎していたのはデイジーだけだった。
ひとりを見つめるぐらいなら、誰も見ないでほしい
主様は頂点なのだから。
デイジーには、薄ぼんやりとしたアッシュが高潔に見えていた。
 
だけどそんな時のアッシュの視線の先には
花壇に植えられたバラの花があった。
 
ローズが死んだ時に、アッシュの命令で全部抜かれたバラだったが
最近になって庭師に頼んで、また植え直したものだった。
窓から見下ろすアッシュを気にしながら、グリスもその作業を手伝ったのだ。
 
 
アッシュは、屋上とローズの墓には決して行かなかった。
その事が、アッシュの心の傷を明確に表わしている。
住人たちの唯一の心配は、アッシュの安否だった。
 
住人たちは、ジジイにもっとひんぱんに館に来るように頼んでいた。
やれやれ、わしの方がお迎えが近い歳なのに、と思いつつも
ジジイはいそいそと館に足を運び
アッシュに、また来たんか、ジジイ、と怒鳴られるのであった。
 
 
同様にリオンも歓迎された。
アッシュの部屋に入り浸って、ゲームに熱中する。
 
いくら年齢差があるとは言え、男女が部屋に篭もってれば
浮いた噂のひとつやふたつは立つものなのに、それがないのは
リオンはRPG好きのくせにマップが読めず
アッシュにギャアギャア怒鳴られながら、ゲームを進めているからである。
その怒号は、窓の外にまで聴こえていた。
 
こんなふたりが愛だ恋だに発展するわけがない。
そういうロマンから、一番遠い人種である。
 
リオンはこれでも一応、長老会の次期主要メンバーなので
遠慮して、挨拶ぐらいしか出来ないのだが
住人たちは、いまや滅多に聞かれないアッシュの罵倒を
方向音痴のリオンに託していたのだ。
 
 
つまり館中が、アッシュが怒声がないと落ち着かない気分になっていたわけで
館全体、M属性に変貌していた。
 
その事を知ってか知らずか、アッシュは常にマイペースであった。
 
 
続く。
 
 
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      ジャンル・やかた 1 09.6.15

ジャンル・やかた 74

グリスは23歳になった。
アッシュが積極的に教育に関わらなかったせいか
心身ともに立派な青年になっていた。
 
アッシュは、もう長老会のメンバーになっていた。
主を15年以上務めたからである。
 
 
真のババアになったというのに
アッシュの顔にはシワもシミも目立たなかった。
 
「いつまでもお若いですね。 さすがニッポン人。」
そう褒められると
「ニッポン人でもお直しなしでこれは、そうはいないものですよー
 わたくし、苦労が顔に出るような生き方はしておりませんのー
 ほーっほっほっほーーー」
と、仁王立ちで高笑いをするアッシュに
誰もがその相変わらずさに、安心を感じるのであった。
 
 
まだ雪が残る寒い朝に、アッシュは眠ったまま二度と目覚める事はなかった。
 
 
結局、右目は見えないままだった。
誰もアッシュの最期の姿や言葉を覚えていなかった。
それぐらい日常に埋もれた、いつもの時間のいつもの光景の中だったのだ。
 
死因は “心不全” にしか、しようがなかった。
長老会の、村の、館の、アッシュを知る誰もが驚き、そして納得した。
何も知らずに来て、何も知らせずに逝ったのだ。
 
 
館中が深い悲しみに沈んだ。
何の示し合わせもないのに、皆が講堂に集まった。
ただそこに来ただけで、祈りもなく言葉もなく座るだけだった。
アッシュの命が停止したと同時に、館中の機能も停止した。
 
 
棺に眠るアッシュの見えない右目に、グリスがバラの花を1輪置いた。
館でのローズの存在は、アッシュにとってはまさに
このバラそのものだったように思えたからだ。
 
グリスに見習って、皆がバラを1輪ずつ入れた。
お陰で温室のバラは、ほとんどが切り取られてしまった。
 
アッシュはバラに包まれて、墓地を見下ろす小高い丘の頂上に埋められた。
兄グレイの墓の側でもローズの墓の側でもなく、ただひとり離れて。
 
 
アッシュの葬儀が終わった後に、デイジーが首を吊った。
デイジーにとって、アッシュそのものが館になっていたのだ。
 
まったく、バカな女!
リリーは、心底腹が立った。
 
ジジイは慌てて、“殉死” 禁止令を出した。
「そんな事をしても、主は喜ばないのはわかっとるじゃろう?
 本当に主の事を想うなら、その意思を継ぐ次の主を支えるべきじゃ!」
 
そういうジジイも、自分よりも何十歳も若いアッシュの死に
立ち直れないほどの衝撃を受けていた。
 
アッシュは自然に逝ったんじゃ。
幸せな死に様じゃったと思うしかない。
じゃが、グリスがそう納得できるかわからん。
若者は死の身近さを知らないからのお。
 
 
グリスは再起不能に思えた。
だけど、さすがアッシュの跡継ぎ。
傷を抱えながらも、アッシュの跡を立派に継いだ。
 
 
続く。
 
 
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      ジャンル・やかた 1 09.6.15

ジャンル・やかた 75

アッシュが死んでから、数十年の時が流れた。
 
館は、いつのまにか “アッシュ館” と呼ばれるようになっていた。
浄化作戦のため、館にできた広報部による宣伝とともに
グリスの時代に立ち上げたサイトに
生前のアッシュが残した言動の数々を、館の住人が何人も書き込み
グリスの後の代で、それは宗教になった。
 
日本人であるアッシュの名を元に
ASU (明日) 教と名付けられたその宗教は
村やクリスタルシティのみならず、国内外に信者が増え
アッシュの墓がある館は聖地となり、巡礼者が絶えなかった。
 
アッシュの墓には、バラの花を奉げるのが習わしとなっていた。
周囲には、真冬でさえバラの花が絶えなかった。
敷地内の温室で、“アッシュ・ローズ” というバラが
栽培されていたからである。
 
 
館では、アッシュの写真集や本やDVDなどのグッズや
敷地内で出来る作物や加工品が売られ
アッシュが言った通り、寄付が投資へと変わり街中が益々潤った。
 
館に住むものは、誇りを持つようになった。
最早、住人は “元犯罪者” ではなくなった。
 
 
浄化が終わったのである。
 
 
館には奇妙な伝説があった。
“ローズレシピ” を付けて屋上に行くと、アッシュの姿が見える、という。
 
この “ローズレシピ” とは
アッシュの寝室用のアロマスプレーのレシピの事である。
 
封印されていたローズの寝室をグリスが開いた時に
部屋の中はローズがいた時のままになっていて
そこにあったノートに書かれていたのだ。
 
 
ローズは殉教者扱いになり、館ブランドのすべての商品には
バラのマークが入れられるようになった。
ローズのアロマ水も飛ぶように売れた。
 
 
“主” の名は、アッシュで最後となった。
館は、亡き主への永遠の忠誠の代わりに、永遠の繁栄を約束された。
 
 
続く。
 
 
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      ジャンル・やかた 1 09.6.15

ジャンル・やかた 76

何も見えない 何も聴こえない
 
 
漆黒の闇の中にアッシュはいた。
何故自分がここにいるのか、いつからいるのか
わからなかったが、何も考えたくもなかった。
 
アッシュは、ただそこにジッといるだけだった。
 
ただ一瞬、ほんの微かな香りが漂う事もあり
何だかとても懐かしく、いとおしい匂いなのだが
それが何なのかも思い出せない。
 
アッシュは、ただそこに立っているだけだった。
 
 
「ちょっと、あんた! いつまでそうしているんだい?」
 
聞き覚えのある声に、アッシュのすべてが息を吹き返した。
途端に周囲が明るくなり、視界が開け、はっきりと見えるようになった。
目の前に立っていたのはローズで、ここは館の屋上だった。
 
ああ、そうだった。
私はこの館の主だったんだ。
そして多分、死んだんだ。
 
 
「だってローズさんが言ったんじゃないですかー。
 『ここで待ってな。』 ってー。」
 
「あんたねえ・・・・・。
 だからと言って、何十年も待ってるんじゃないよ。」
 
「へ? そんなに待たせたんですかー? ひっでーーーーーー!
 遅刻するにも程があるってもんですよー。
 てゆーか、私それ、すっかり地縛しちゃってるじゃないですかー。
 びっくりー!
 まさか自分が地縛霊になるとはーーー。
 最初はホラーで、次にアドベンチャー、そんで洗脳セミナーときて
 最後が心霊ものとは、壮大な生涯ですよねー。」
 
ローズは頭を振った。
「あんたと話すと、いっつもわけがわかんなくなるのは相変わらずだねえ。」
「いい加減、慣れてくださいよー。」
 
 
アッシュがヘラヘラ笑うのを見て、ローズもついつられて笑ってしまう。
「ま、いいや。 ほら、あそこに行くんだよ。」
ローズが指差した先には、黒い渦が巻いている。
 
「え? うっそーーーーーっっっ!
 何かいかにも “地獄への入り口” って感じじゃないですかー。
 普通、花畑とか光の階段とかじゃないんですかー?」
 
後ずさりするアッシュに、ローズが迫る。
「あんたねえ、あたしらがそんな良いとこに行けると思ってるのかい?
 あたしらはこれから、今までした事の償いをしなきゃいけないんだよ。」
 
「ええええええええええ------っっっ
 生前反省して、結構良い事もしたのにダメなんですかー?」
「反省と償いは、また違うんだよ。 良い行いも別問題さ。
 した事の始末は必ずつけなければいけないんだ。」
 
 
アッシュはビビりながら訊いた。
「何ー? 熱湯風呂とか氷漬けとかいう目に遭うんですか-?」
 
「いや、そんなもんはないよ。
 ただ生きていた時に自分がしてきた事を、自分の姿を言葉を
 1分1秒残らず目の前で再現されるのさ。
 あたしらはただそれを見せられるだけさ。
 繰り返し繰り返し、何十年も何百年もね。」
 
 
その言葉にアッシュは絶望的になった。
「うっわーーーーーー・・・・・、それはマジ地獄すぎるー・・・。
 私、ここでこのまま地縛しといて良いですかー?」
 
うなだれるアッシュに、ローズが肩を叩く。
「何十年ここにいようが、いつかは絶対に受けなきゃいけない事なんだよ。
 そうやって自分の行いを省みて初めて、安らかな眠りにつけるんだ。
 あたしは自殺したから、その分償いの時間も長いけど
 一緒の場所なんだから、さあ行こう。」
 
アッシュの表情がパッと明るくなった。
「えっ、ローズさんも一緒なんですかー?」
 
「そうだよ、皆並んで自己嫌悪を味わい続けるのさ。」
「えっ、じゃあ、大久保清とかいましたー?」
「・・・・・知らないよ、そんなヤツ・・・。」
 
 
「んじゃ、行きますかー。
 ローズさんと一緒なら、どこでもオッケーゴ-ゴゴー! ですよー。」
「・・・相変わらず、妙な前向きさだね・・・。」
 
ローズが隣に並んだ瞬間、アッシュの右目が見えるようになった。
アッシュは驚いてローズを見た。
「ん? どうしたんだい?」
 
ローズの笑みに、アッシュも笑って返した。
「何でもないですー。 さ、ズンズン行きましょー。」
 
 
「行く前に、館の様子を見納めしなくて良いのかい?」
アッシュが軽快に答える。
 
「良いんですよー。
 私の出番は終わりましたからー。
 立つ鳥、跡を汚さず、老兵は去るのみ
 我が人生に一遍の悔いもなし、byラオウ ですよー。
 後は後の人たちに任せましょうー。」
 
「あんたらしいね。」
ローズが微笑むと、アッシュが調子こいてローズの両手を握った。
そんなアッシュの行為に苦笑しつつも、ローズも合わせてくれる。
 
 
 
「さあ、これから永い永い地獄が待ってるんですから
 せめて今だけは、ワルツでも踊りながら楽しく進みましょうよー。」
 
 
 
          終わり。
 
 
 
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      ジャンル・やかた 後書き 10.4.30  
    
      ジャンル・やかた 1 09.6.15
      カテゴリー ジャンル・やかた

ジャンル・やかた 後書き

何度も書いてるけど、総決算として一応説明すると
この小説もどきは、高熱にうなされていた時に夢で見た話。
 
その夢がまた設定がきちんとされていて、ウトウトする度に続きが見られて
しかも私にとっては、結構楽しい内容だったので
それまで小説系など書こうと思った事もないのに
物語として書いてみよう、という気になったのである。
 
夢だったので、当然私が主人公である。
アッシュの性格や物の考え方や言動は、私そのものである。
こういう状況だったらこうするだろうな、という私の考える私像だ。
 
私の考える私像でも、最大の美化をしているのは当然である。
好き放題にやってるのに、皆に受け入れられる
ってのが私の理想なんで、作中ではそれを充分に叶えられて
とても楽しかった。
こうやって妄想って肥大するんだな、と知ったぜ。
 
 
ローズは、私の周囲の人たちをミックスした感じの性格だ。
何故か面倒見が良い人々が多くて、恩恵にあずかっている。
本当にありがとうー。
皆の親切は、この小説もどきで花開いたよー。
リアルじゃこのブログは秘密にしてるんで、全然意味ないけどなー。
 
それ以外の登場人物のモデルはいない。
似た人もいなく、完全に空想上の人物だ。
自分に似てる! と思ったやつ、己の人格を疑え。
ヘンなヤツだらけだぞ、この話は。
 
 
そんで、この話に出る人名地名は、草花の名をもじったものなんだ。
名称を考えるのが一番の悩みの種で、迷いに迷ったんで
いっそ何かの種類に統一しちゃえ、と。
 
それで種類が多そうなのが植物かな、と決めたは良いけど
大自然には一切興味がないんで、草木の名前とかもまったく知らず
植物図鑑サイトを頼りに頼ったよ。
各サイトの製作者の皆さん、ありがとうー。
皆さんの親切はこの小説もどきで、以下略。
(植物だけに “花開く” とか、たわけたら殴られそうだな。)
 
ちなみに、主と主候補たちは全員 “灰色” という名前。
グレー、アッシュ、グリス。
ジジイはひとりだけ、そのままジジイで名無しなんだが
こいつ、すげえイジメ甲斐のあるヤツで大好きだった。
 
 
夢で見たのは、子供に暴力をふるうシーンまでだった。
本当は、夢では子供を切り殺してしまったんだけど
それはあんまりだろう、と思ったんで、蹴るだけにした。
 
それでも、とんでもない事なんだが
夢で見るって事は、私って襲われたらたとえ相手が子供でも
やっちゃうのかも知れんのかな・・・、と
かなりのショックを受けた場面だったんで、あえて省略しなかった。
 
 
夢で見たと言っても、そんなに詳細には見てはいない。
脳内でわかっているだけで、場面はところどころに分割されていた。
それを繋げて書いたら、えれえ長くなる長くなる。
 
全体の設定は夢で決まってたので
ラストをどうするかは、私の思想で決めた。
そのラストに向かって、どう動くのか
それを想像するのは思ったよりも簡単だった。
 
ただそれを文章にすると、これまた長くなる長くなる。
たとえて言えば、家から会社まで車で通勤しているとするだろ?
そしたら、いつも通っているから道順はわかるよな。
でも、その道の両側にどんな家があって、どんなビルがあって
とまでは、全部は覚えてはいないだろ?
 
脳内物語では、その道順をすっ飛ばして一瞬で目的地に着くんで
それを文章で説明しようとすると
状況をわかりやすくするためにも、両側の建物の種類まで書かにゃならん。
 
そういう感じで、脳内での短い展開を文章にすると
やたらめったら長くなる事には、実際に書いてみて驚いたよ。
 
 
脳内での物語は、10話ぐらいで終わると思ってたんだ。
ところが3話過ぎあたりから、あれ? これはヤバくねえ?
と思い始めて、10話を超えたあたりから
いや、これはマジで激ヤバだろー、と
大体の展開で、何話ぐらいになるか計算してみたら
80話は軽く行くんじゃないか? となって
その計算にも時間が掛かって
そういうヒマがあったら書き進めた方がまだマシじゃないか、みたいな
でも “私” の計算だから、絶対に怪しい答なはず、みたいな
そういう感じで、書き始めた事をちょっと後悔もした。
 
 
だけどチラホラと、「読んでる」 って言ってくれる人が来てくれて
それにも、もんのすげーーーーーーーーーーーー意外で驚いたんだけど
むっちゃくちゃ励みになって、書くのもどんどん楽しくなったんだ。
 
マンガの後書きとかで、「読者に感謝」 と
書いてる人の気持ちがマジでわかったぜ。
「続きは?」 と言われるのが、こんなに励みになるとは知らなかった。
途中で止めなくて良かったよ。
本当に本当にありがとう。
 
 
そして驚いたのが、読んでくれた人のマナーの良さだ。
続いてる時は、励ましのみのコメントで
終わってから感想を言ってくれる。
最終回になって初めて、出てきてくれた人たちもいた。
 
「次はこうなるんだろ?」 みたいな
先読み推理を言う人がひとりもいなかった。
 
そうか、連載物というのは、こういう態度で読むんだな
と、教えてもらったよ。
礼儀をどうもありがとう。
 
 
話が膨らみすぎて、どう削るか悩んだあげくに
これは番外編 (今で言うところの “スピンオフ” か?) で
書けばいいや、というぐらいに
ジャンル・やかたの世界は、私の脳内で広がってしまった。
 
某漫画家が、1作品を数十年も続けるのもわかる気がする。
その人たちはプロだから、他にも色んな作品も描いてるけど
私は一発屋で終わりそうな気配だがな。
 
 
ただただ、書いていて単純に楽しかったんで
この小説もどきの執筆は続けたいと思っている。
 
て言うか、この “小説もどき” という言い方も
何か卑怯くせえ謙遜なんで止める。
私は小説を書いているつもりなんで、ちゃんと “小説” と言うよ。
出来はともかくもな。
 
とにかく、老後の良い趣味が見つかった、という気分なんだ。
美容にゲームにホラーに映画なのに
これ以上趣味を増やしてどうするんだ、って気もせんでもねえがな。
 
 
なお、これから恒例の言い訳のコーナーに入るが
文章がヘンなのは認める!
それは、ほんとすいませんすいません。
 
(誤字脱字等は指摘してください。
 途中でつじつま合わせの確認のため、読み直してみたら
 ものすげえ箇所、間違ってたんだ。
 面倒だったんで、まだ直してないけど。 ← ・・・ )
 
だけど、いっちょだけ主張したい。
今って携帯とかPCとかで、漢字変換が容易に出来るだろ
書けない読めない漢字を使うと、意味がわからずほんと困る
という己の経験から、あえてひらがなで表記してる部分もあるんだ。
ルビ (読み仮名) が振れないだろ、PCって。
 
皆ここらへんを配慮してくれたらなあ、と思うんだが
それは単に私が漢字を読めないドアホウなだけかも知れない。
それでも私は、これからも自分が書けない漢字は使わないでおく。
 
普通は本を読んで、漢字を覚えるもので
そういう意味でも私の記事はタメにならん、っちゅう話で終わってしまって
何じゃこりゃあああああああ!!! by ゆうさく・まつだ
 
古っ? うるせえ、まごう事なきババアなんだよ、私は!

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