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黒雪伝説・王の乱 Archive

黒雪伝説・王の乱 1

「おおっ、王子さまと黒雪さまがお帰りになられたぞ!」
城にはもう早馬による知らせが届いていた。
今回の旅で、最北西の場所に温泉と鉄の鉱脈が見つかった事は
城中の者が知っていた。
 
「さすが、あの黒雪さま!」
城の者は口々にそう感心した。
 
 
「・・・私の評価は低いですよね・・・。」
王子にそう言われたら、普通は返事に困るものだが黒雪は違う。
 
「しょうがないでしょ。
 F1だって、ドライバーのみが褒め称えられて
 メカニックの苦労は目立たないものだし。」
 
黒雪に気楽に言われて、王子は激しくムカついた。
「私だって体を張ってるじゃありませんか!」
王子の声がワンワン響いた。
 
場所は風呂場。
王子専用の広い風呂があるというのに
黒雪の後を付いてきて、黒雪が脱ぐ隣で王子も脱ぎ始め
黒雪が湯に浸かる横に入ってきて、グチグチ言ってるのである。
風呂担当の者たちも、全員困っている。
 
 
「あらあ、あなた、自分の評価のためにやってるんだー?」
黒雪が、プププと含み笑いをした。
これ以上に腹が立つ返しもない。
 
王子がザバーーーッと立った。
お、くるかな? と黒雪は思ったが、無言で風呂場を出て行った。
さすがの王子も、今までになく激怒したようである。
 
黒雪はそのまま、振り返るでもなく
のんびりとお湯に浸かりながら鼻歌を歌った。
 
 
「放っといて良いんですのん?」
ヌッと顔を出したのはキド。
キドは、またボウルでパック剤を練っている。
 
「おまえの、そのパック、臭いのよねえ。」
黒雪の嘆きを、キドは無表情で切って捨てる。
 
「無臭にするには、また余計な処理が必要なのですわん。
 今はもう、美容は “ナチュラル” の時代ですのよん。
 そんな事より、王子さま、可哀想じゃないのん。」
 
「んーーーーー。」
黒雪は、困ったように唸った。
 
 
“国のため” という信念をブレさせたらいけない。
何年もお偉いさんをやっていると
その内に、大義よりも保身が大事になってくる。
評価などを気にしていたら、判断に支障が出るというのに。
 
これを黒雪が本能で知っていたのは
生まれつきのお姫様だったからである。
評価などなくても、過去は揺るぎないのだ。
 
 
あの人も妖精界の “王子” とはいえ
私と違って、生まれた時から既にその立場を失っていたんで
今のこの地位にしがみつきたがる恐れもある。
 
北国の再興と繁栄のためには、評価うんぬんは諦めて
無償で使命を果たしてもらわないと。
 
 
鏡の前でマッスルポーズを取り、自慢の筋肉を確認しつつも考える。
さあて、どうやったらあの人が納得するかしら
 
黒雪にしては珍しく、少し悩んでいた。
 
 
 続く 
 
 
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黒雪伝説・王の乱 2

大広間では、黒雪の親衛隊が注目をあびていた。
しかしそれは遠巻きに遠巻きにで
彼女らの周囲には、見えないドーナツが置かれているかのように
空間がポッカリ空いていた。
 
数日前まで海賊だった彼女らにとっては
慣れない軍服を着せられた上に
お貴族様たちの好奇の目に晒されるのは、ひどく耐え難い。
間が持たずにジリジリしているところに、黒雪がやってきた。
 
 
頭領、レグランドがホッとして黒雪のところに走り寄る。
「黒雪さま、おお、ドレス姿がお美し・・・い・・・?」
 
「お世辞など言わずともよろしい。
 私の美容係など、遠慮なく罵詈雑言の嵐よ。
 まったく、高貴な姫君に向かって・・・。」
 
 
広間の中央に親衛隊を連れて行った黒雪が、大声で言った。
「皆さん、ご紹介しましょう。
 今回の旅で功績を上げ、私の親衛隊となった女性たち
 名付けて、肉塊三姉妹です!」
 
「ちょ、その名前はご勘弁を!!!」
すがりつくレグランドに、黒雪はガラ悪く舌打ちをした。
「注文が多いわね。」
「初めての注文だし!」
 
「はいはい、わかったわかった。
 えーと、黒雪親衛隊です。
 皆さん、よろしくお願いします。」
 
 
部屋中から拍手が鳴り響いた。
人々が親衛隊の体に無邪気に触れて喜ぶ。
「おお、デラ・マッチョではないか!」
「凄いですわね、デラ・マッチョですこと。」
 
「デ・・・、デラ・マッチョ・・・?」
わけわからん褒め言葉?に、呆然とする親衛隊であった。
 
“デラ” が何かと言うと
頭の悪いヤツが、メガ → ギガ (だったっけ?) ときたら
次の単位は デラ だ! と言い張った事に由来する。
ちなみに今でも、テラよりデラの方がそれらしいと思っている。
スペイン語っぽくって良いではないか!
 
 
「・・・私の存在は無視ですか・・・。」
王子が暗い顔をして、黒雪の背後でつぶやいた。
 
「うおっ、びっくりした!!!
 あなた、いるならさっさと声を掛けてくれれば良いのに。」
「・・・普通の妻は、夫を真っ先に探すものですがね・・・。」
 
目を逸らしながらブツブツ言う王子に
黒雪はニッコリと微笑んで、頬にキスをして耳元でささやいた。
「私の忍耐力はそんなにない、って事はご存知ですわよね? ふふっ」
 
微笑む黒雪のこめかみに、太い血管が浮いているのを見て
王子は恐怖を感じたけど、どうしても不満が拭い去れず涙目になる。
「だって・・・、だって・・・」
 
「二児の父親が 『だってだって』 じゃありませんよ?」
黒雪の微笑みは最上級になった。
 
 
王子の背中に妙にサラリとした汗が流れ落ちた時に、広間に声が響いた。
「王さまのおなーーーりーーー!!!」
一同が頭を下げて迎える。
 
王は、ゆっくりと広間に入ってきた。
「こたびは王子と妃の働きにより、資源が見つかった事まことに喜ばしい。」
王子と黒雪は、王の前に出てお辞儀をした。
 
良いけど、毎回のこの儀式が面倒なのよね
この王、無能なくせにこうやって威張りたがって
パーティーばかり開くのがうっとうしいわ・・・
たまにはあんたも何か役に立て、っつの。
 
黒雪は王子とのケンカのイライラも合わさって
心の中で、いつも以上のリキの入った罵倒をしていた。
 
 
「だがしかし、その真意は
 余をおとしめようとする企みと聞いた。
 正当な王の権威を脅かす、この不届き者たちを捕えよ!!!」
 
 
会場が は??? と、なった。
もう、誰ひとり残らず、は??? である。
 
 
 続く 
 
 
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黒雪伝説・王の乱 3

全員が延々と、は??? となっている最中
真っ先に事態を認識したのは王子であった。
「奥さま! 濡れ衣です!」
 
黒雪は は? と、また王子に言う。
「戦闘モードに入ってください!
 このままじゃ、謀反人にされますよ!
 私たち、“また” 国を追われますよ!!!」
 
その言葉に、黒雪のスイッチが入った。
何がどうなってるのかわからないけど、多分ピーーーンチ!
黒雪は広間の隅の花瓶を蹴り落して、その台の上に王子を乗せた。
 
 
「皆さん、王さまのお言葉は誤解です。
 私たちは、この国の繁栄のみを願って・・・」
王子の言葉を王がさえぎる。
「ええい、キレイ事をヌカすな!
 余にはわかっておる。
 そなたが余を追い落として王になろうとしている事を!」
 
「アホか!
 わざわざ追い落とさなくても、王子は自動的に次期王でしょ。
 そんなに寝言を言いたいんなら、思う存分言えるように
 永眠させてあげましょうか?」
 
黒雪の罵倒に、王はほら見た事か、と叫んだ。
「聞いただろう!
 余を殺すと!!!」
 
 
「ほんとに、くびり殺したろか?」
拳をバキボキ鳴らしていきり立つ黒雪を、王子が止める。
「奥さま、何でも力押しに持っていくのはやめてください!
 デラ・マッチョ、奥さまを押さえてくださいーっ!」
 
「えっ、あたしら、デラ・マッチョ決定・・・?」
嘆きながらも、3人掛かりで取り押さえるので
さすがの黒雪も、身動きが取れない。
 
「とりあえず、ここは引きましょう。」
「えっ? 何でよ、何も悪い事はしていないのにーーーっ。」
 
 
黒雪の言い分ももっともだが、臣下は王の命令には逆らえない。
王のおかしさに気付いているのに、王が望む通り
王子と黒雪を捕えなければならないのである。
 
「これ以上、この場を混乱させないためには
 私たちが一旦捕まるか、逃げるしかないでしょう。
 捕まえられた場合、奥さまがどれだけ暴れるかわからないから
 城の被害を最小限にするためにも
 ここは逃げる事を選びましょう。」
 
うーうー唸る黒雪を引きずりながら
デラ・マッチョたちは、王子のこの意見に賛同した。
 
 
「どこに行きますか? 王子さま。」
「とりあえず、西方向に。
 西の村に行くと見せかけて、その後荒野の方面に。
 あそこなら、東国の動きも把握できますから。」
 
黒雪が追われたなど東国が知ったら、戦になりかねない。
東国への情報漏れも、事前に止めたい。
 
 
にしても、また荒野へ・・・。
あそことは不思議な縁があるようですね。
王子は必死に女走りをしながらも、あれこれと考えた。
 
黒雪は縄と毛布でグルグル巻きにされて
デラ・マッチョたちに、エッホエッホと担がれて運ばれていた。
追っ手が来ていないのが、こちら側にとっては朗報であった。
 
 
 続く 
 
 
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黒雪伝説・王の乱 4

「おまえたちーーーーーーーーっ
 よくも私を、す巻きにしてくれたわね!」
 
黒雪のこの怒りを抑えるのは、王子にとっては簡単だった。
「王を一発も殴らずに、あの場を逃げる事が
 あなたに出来ましたかっ?」
 
王子がギンッと睨むと、黒雪は気まずそうに目を逸らした。
「あなた、普段から王がうっとうしいと思ってたでしょう?
 ここぞとばかりに、殴りたかったんじゃないですか?」
 
黒雪が頭を掻きながら言う。
「・・・あの王さあ、ほんっとバカ君主の見本だと思わない?
 美しいもの楽しい事が大好きで、政治は大臣任せ。
 地位と権力があるのに、遊ぶ事しかしやしない。
 王家に生まれついて運が良かった、と思っている。」
 
 
王子はこの意見にあっさり賛成した。
「ええ。 バカな王だと思いますよ。」
「でしょ? どさくさ紛れに5~6発ぐらい殴っても良いわよね。」
 
「・・・普通、1~2発と言いませんか?
 あー、ほんと止めて良かったですよー。
 あなた、どんだけ、ついでの暴力を振るうつもりだったんですか!」
 
王子がこめかみを押さえつつ溜め息を付いた。
「いいですか?
 いくら相手がムチャを言ってきたとしても
 手を出したら最後、こっちが悪者になってしまうんですよ。
 殴った瞬間、相手の嘘が本当だと周囲に思われるんです!」
 
 
黒雪が正座させられて、王子に説教されている間
デラ・マッチョは、野宿の用意に取り掛かっていた。
 
「王子さまの判断は正しかったね。」
「ああ。 あのまま黒雪さまを放置してたら死人が出たよ。」
「隙さえあれば暴力に走ろうとするもんね・・・。」
 
 
デラ・マッチョが準備した焚き火のところに座ろうと
黒雪を呼ぼうとした王子が振り返ると
黒雪はフラフラとどこぞへ歩いて行こうとしていた。
「奥さま、どこへ行くんですか!」
 
王子のイラ立った声に、黒雪もついつい低姿勢になる。
「いや、ウサギでも狩ろうかと・・・。」
「何でいつもウサギを狩りたがるんですか!」
 
王子の剣幕に、デラ・マッチョはヒヤヒヤしたが
黒雪は真面目な顔で答えた。
「猪だと、結構大変なのよ?」
 
「いいから、こっちに来て座ってください!!!」
肉、大事なのに、と思いつつ、渋々と座る黒雪。
 
 
無理やり気を取り直して、王子が皆に問う。
「これからどうするか、何か案はありますか?」
勢い良く手を挙げたのは黒雪だった。
「はい! 王を殺せば良いと思います!」
 
王子は無視して、黒雪に背を向けて続けた。
「今回の事は、まったくわけがわからない状況で
 まずはその解明から始めるべきだと思うのですが
 その方法について、どう思いますか?」
 
黒雪が王子の後ろで、手を挙げながら叫ぶ。
「はいはいはいはい!!!!!
 王を拷問して口を割らせれば良いと思います!!」
王子がブチッと来たようで、黒雪の両肩を掴んで諭し始めた。
 
 
「あなた、昔はもっと賢かったですよねえ?
 何でそんなに脳みそまで筋肉化しちゃったんですか?」
王子も大概な言い様だが、黒雪はとても良い作戦のように誇る。
「だって考える担当はあなたがいるから。
 ほら、役割分担。 あなたも私も同じように必要、ね?」
 
この答は、黒雪なりの王子への思いやりだとはわかったけど
王子はガックリと肩を落とした。
 
「にしても、少しは考えてくださいよ・・・。
 私が考えてる隙に、あなたが先走って暴れたら
 元も子もないんですよ?
 あなたに犬死にしてほしくないんですよ?」
 
 
王子が姫のように真珠の涙をハラハラとこぼしているところに
黒雪が、何故そこで言う? というセリフを吐いた。
「犬と言えば、ネオトス、どうしてるの?」
 
王子が追い討ちをかけられたかのように嘆く。
「私の腹心のじい、犬扱いですか・・・。」
 
が、その後、王子がハッと気付いた。
「そう言えば、じいがいましたね!」
 
 
 続く 
 
 
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黒雪伝説・王の乱 5

デラ・マッチョが用意したスープを
黒雪がかっ込んでいる横で、王子は考え込んでいた。
 
今回の事で、じいは私に付いて来なかった。
私には奥さまが付いているから
身の危険だけはないと踏んだのだろう。
じいはきっと、城に残って王近辺を調べているはず。
 
 
「ネオトスが黒幕だったりしてー。」
黒雪がコーヒーを飲みながら、ヘラヘラと笑った。
 
一応の人間関係を王子に教わったデラ・マッチョたちは
黒雪の無神経な言葉にヒヤッとしたが
王子は黒雪の軽口に慣れているのか
ネオトスに全幅の信頼をおいているのか、サラリと流した。
「つまらない冗談ですね。」
 
 
「て言うか、今ふと思ったんだけど。」
黒雪が真面目な顔になった。
「この後、西に行くフリをしつつ東に行くのよね?」
 
「ええ。 今回の事を東国に知られる前に収めたいのです。」
王子の言葉に、黒雪が質問する。
「何で東国に知られるの?」
 
「えっ? それは・・・。」
「私の取り巻きに、東国のスパイがいると思ってるんだよね?」
「・・・・・ええと、それは・・・。」
 
困りまくる王子に突っ込む黒雪
デラ・マッチョはいたたまれずに、この場にいた事を
いや、黒雪の下に来た事を心底後悔した。
もう、何か最初からドロドロのドロ沼。
 
 
「普通それはやっておかなくちゃ、よね。」
黒雪は平然と言う。
「うちのとうちゃん、東国の王はちょっと頼りないけど
 さすがに嫁ぎ先の娘の安否を確かめる術は心得てるだろうし。」
 
「え? じゃあ、本当にスパイがいるんですか?」
王子が驚いて訊き返す。
 
「あなたはヘビだからわからないだろうけど
 人間の王族の通常の婚姻は、国の外交なのよ。
 姫は嫁ぎ先での、生きた大使館なわけ。
 私と共に北国に来た者の中には、諜報の役目の者もいて当然よ。」
 
「えっ、私との結婚は政略なわけですか!」
こういう話になると、すぐに我を忘れる王子。
「“通常は” っつってんでしょ! うっとうしい!!」
手の早い黒雪に頭をバチーンと平手で叩かれる。
 
 
「で、誰が東国の手先なのか、私にもわからないわけだけど
 東国への道の途中で待ち伏せておけば良いわよね。
 ちょうど温泉もあるし。」
 
王子が叩かれた頭をさすりながら言う。
「そうですね。
 では、二手に分かれる必要がありますね。
 西の村に話を通してワナを張る側と
 東国への流出を止める側。」
 
「城に探りに行くのは?」
口を挟むレグランドに、王子が答える。
「それは “下ごしらえ” をしてからで良いでしょう。」
 
 
黒雪が指示を出す。
「じゃあ、棒、おまえが西の村に行って。」
 
棒???
全員が顔を見合わせる。
「おまえよ、おまえ。」
黒雪が三つ編みのクレンネルを指差した。
 
「あ、あたし、棒ですか?」
「“でくのぼう” よりマシでしょ。
 そんで、頭領と肉は私たちと一緒に荒野へ来るのよ。」
 
 
「・・・名前では呼ばれないのね・・・。」
つぶやくレグランドに、エジリンが言う。
「“頭領” で何の文句があるだよ?
 あたしなんて “肉” だよ。」
 
「フルネームは “肉団子” ねっ。」
にっこりと言う黒雪に、エジリンはムッツリする。
 
「こら、奥さま、あまりにも失礼すぎますよ!
 クレンネル、多分あなたは今回はオトリとして
 単独行動の時間が長くなるはずです。
 難しいでしょうが、お願いしますね。」
「はい。」
クレンネルは、少し緊張した声で返事をした。
 
 
デラ・マッチョと王子が打ち合わせをしている間
黒雪はそこいらを爆走していたと思ったら
ドスンドスンと重そうな足取りで帰って来た。
 
「ちょ、冗談で狙ってみたらマジで獲れたわ!!!」
 
見ると、小さめの猪を担いでいる。
どこまで野性的なのか、呆れる一同の中、王子が頬を染めた。
「そういうとこが結構好きなんですよね (はぁと)」
 
バカ夫婦・・・。
 
 
 続く 
 
 
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黒雪伝説・王の乱 6

「棒、西の村でこれをワイロに使いなさいね。」
さばいた猪肉を担がされるクレンネル。
 
 
クレンネルと黒雪一行は、城の南西で別れた。
高台から望遠鏡で覗くエジリンに、王子が訊く。
「追っ手が放たれた形跡はありますか?」
 
エジリンは即答した。
「いえ、ずっと注意していますけど
 今のところ、その気配がないのです。」
 
王子は考え込んだ。
「それもおかしいですねえ・・・。」
「私たちの追放が目的なんじゃないの?」
黒雪が王子の肩越しにヌッと顔を出す。
 
「追放・・・? 何のために?」
「あれよあれ、シャイニング!
 雪に閉ざされた城の中で惨劇が・・・。」
困って目を逸らそうとしたレグランドは、王子と目が合ってしまった。
 
 
「とにかく私たちは荒野で待ちましょう。
 あそこなら雪に閉ざされないし。」
 
「うーん・・・、待ちは性に合わないわー。」
「あなたは今すぐに城になだれ込んで暴れたいでしょうね。」
王子の言葉を、黒雪は意外にも否定した。
 
「ええ? まさかー。
 城攻めは遠くから大砲を撃ち込むものよ。
 おっほっほ。」
 

黒雪の言葉を聞いた王子が、考え込んだ。
「・・・・・・・」
 
「どうしたの?」
黒雪が訊くも、放置して
レグランドとエジリンと、何かを話している。
その後エジリンは、クレンネルの後を追って行った。
 
 
「ねえ、何がどうなってるのよ?」
黒雪が王子にせっつく。
 
王子はそんな黒雪を見て、ニヤニヤした。
「あなたにせがまれる、というのも中々良いですね。」
 
その言葉は、黒雪をものすごくイラ付かせた。
「あなたじゃなければ、殴り殺している自信があるわ!」
 
黒雪はプイッと背を向けて、荒野の方にズンズン歩き始めた。
その背中に怒りの炎が立ち上っている。
 
 
レグランドはゾッとしていた。
あの黒雪をここまで怒らせて、平然としている王子にである。
 
どう見ても、王子の方が黒雪に惚れていて
また、黒雪の方が派手で目立って、能力があり
常に王子が後を追って回っているように感じるのだが
近くでしばらく過ごしてみると
王子の立ち位置がまったく動かないのがわかるのだ。
 
この王子、意外にも食わせ者かも・・・
レグランドは密かにそう思っていた。
 
 
黒雪がブリブリ怒って突き進むちょっと後ろから
王子が道端の花などを愛でながら、ゆっくり歩いて行き
そのまた後ろを、レグランドがついて行く。
 
ポツンポツンと咲く紫の花の隣を、枯れ葉が転がって行く。
秋が足早に去ろうとしていた。
 
 
 続く 
 
 
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黒雪伝説・王の乱 7

「ん・・・?」
いきなり突っ伏して、地面に耳をつける黒雪。
 
「何をしてるんです?」
「シッ! 動かないで!!」
王子とレグランドは、その場で固まるしかなかった。
 
 
「・・・かすかに気配があったのよ。
 南の方から。」
「あなた、時々人間とは思えない能力を発揮しますよね。」
 
「これ、サバイバル法なのよ。
 東国じゃカリスマ山賊ってのがいてね
 そのほとんどは、見た目の良さで売ってるんだけど
 私の師匠は、真の山賊技術で尊敬されてるお方だったのよ。」
 
「さ・・・山賊がいるんですか?」
驚くレグランドに、王子が笑いながら言う。
「北国だって海賊がいるじゃないですか。
 山か海かの違いですよ。」
 
「違う!」
王子の言葉に、黒雪が怒り出した。
「東国の山賊技術は、国技なの!
 東国人は、山賊技術が生涯学習なの!」
 
王子とレグランドは目を合わせたが、無言だった。
ふたりとも、そんな国はイヤだな、と思ったが言えるはずがない。
 
 
「そんな国、何かイヤでござるねえ。」
 
王子とレグランドはギョッとした。
自分が無意識に口に出してしまったのか、と慌てた。
 
「そんな事をこんなところで大声で叫んでいるから
 こうなるんでござるよ。 フヒョヒョヒョヒョヒョ」
黒雪の背後に人影が見えた。
 
ああ、自分が言ったんじゃなくて、本当に良かった
と胸を撫で下ろしたのもつかの間
よく見ると、黒雪の喉に短剣が突きつけられている。
 
「黒雪さまの後ろ、取ったり! グフッ」
男は楽しそうに含み笑いをした。
 
 
立ちくらみを起こす王子と
それを支えるレグランドに、黒雪は手を振った。
 
「ああ、大丈夫。 こいつは知り合いだから。」
言った後に少し考えて、後ろの男に同意を求める。
「大丈夫・・・よね?」
 
男は短剣を華麗に回しながら、鞘に戻した。
「やっぱり何か起こったんですね? ハフウ・・・。」
 
 
男の名はファフェイ。
継母が数年前から忍者に凝り、側に仕えさせている。
 
「盛り過ぎた筋肉など、動きの邪魔でござるよ。
 暗殺には忍術が一番! フーッフッフッフ」
 
モデル立ちするファフェイに、黒雪が顔を赤らめる。
「ごめん・・・、継母ほんと、こんなんばっかり集めてるのよ・・・。」
 
 
 続く 
 
 
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       黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4 
       
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黒雪伝説・王の乱 8

「で、おまえ、何故ここに?」
黒雪の質問に、ファフェイは口を押さえてウフウフと笑う。
その姿を見て、レグランドは嫌悪感を覚えた。
やだ、何かこいつ、気持ち悪・・・。
 
「お后さまは、“鏡” をお探しになってるんでござるよ、ウフフ。
 黒雪さまのお側にも、もちろん間者を忍ばせてるんでござるけど
 いいところで連絡が途絶えてしまい、ウフ
 それで、それがしが遣わされたのでござる、ウフフフフ。」
膝を付き、頭を下げたまま語るファフェイ。
 
「お父さまじゃなく、お継母さまだったのね・・・。
 お父さま側は何をしてるのかしら?
 相変わらず手ぬるいわねえ。」
 
黒雪が嘆く横で、王子がファフェイに質問をした。
「間者とは誰ですか?」
ファフェイはウフウフと笑っているだけである。
 
 
「言わないのなら、私の敵って事で良いのかしら? その間者。」
黒雪が無表情で言うと、ファフェイは慌てだした。
 
「いえっ、滅相もない!
 それがしどもは心配しての事で
 決して黒雪さまに敵対などしないでござる! アフフフフフフフ」
 
小刻みに足踏みをするファフェイに
レグランドは、虫でも見るような目つきになってしまった。
 
「だったら誰なの?」
「キキキキキキドでござるっ! アフアフアフ」
 
一瞬全員が 誰????? という表情になったが、すぐに思い出した。
あのカマ美容係か・・・・・。
 
「あ、そ、そうね、お継母さまはキドと気が合うでしょうね。」
キドの意外な重要人物設定に、黒雪が愕然としながらも納得する。
 
 
「で、どういうわけであなたはここに来たんですか?」
引き続き王子がファフェイを詰問する。
「んー、さすが王子さま、核心をブラさないでござるなあ、ウフフフ。」
 
黒雪が王子の顔を覗き込んで言う。
「ね? 誘い受けってイライラするでしょ?」
 
私はこんな事してない! と反論したかったけど
怒っていた黒雪が、それを忘れて普通に話しかけてきたので
我慢して、でも返事はせずにファフェイの方を向いた。
 
ファフェイは、忍者の定番の服装をしていて
それは逆にこの世界では、これ以上にないほど悪目立ちなのだが
その上に、胸元から手裏剣をチラ見せしたりしている。
 
 
「待ったってムリよ、こいつは。」
黒雪が指の関節を鳴らしながら、近づこうとすると
ファフェイが急に後ろに飛び退いて、土下座した。
 
「フハーーーーーーーーーッッッすまぬでござるすまぬでござる言うでござる別に秘密じゃないんでござると言うか黒雪様が無事かを確かめに来たんでござる何も隠してないんでござるーーーーーーーーっっっ!!!フェッフェッ」
 
土下座しているファフェイの耳をかすめて
地面にかかと落としをした黒雪が怒鳴る。
「さっさと吐かないから、恐怖を味わうハメになるのよ!」
 
「奥さま・・・、チンピラのような言動はしないでください。」
黒雪のガラの悪さを、さすがに王子がたしなめる。
 
 
どうやら、ファフェイは腕では黒雪には敵わないようである。
 
 
 続く 
 
 
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黒雪伝説・王の乱 9

「で、ファフェイの登場は、まったく価値のないものだったんだけど
 これからどうする?」
王子に訊く黒雪に、ファフェイが怒る。
 
「失礼にも程があるでござるよ、プンプン!
 大体、それがしが1人でここまで来るとお思いでござるか?」
 
「うわ、こいつ、“プンプン” とか言ってるわよ。」
顔を見合わせて、気持ち悪がる黒雪とレグランド。
マッチョでも、やはり気持ちは女性である。
 
意外に気にしないのが王子。
「それより、他に誰か来てるんですか?」
 
「ムッフッフー。」
ニヤニヤしながら、クネるファフェイ。
 
 
首を倒してゴキゴキ鳴らせる黒雪が
差し出した手の平に、レグランドがハンマーを置く。
 
「はわわわわわわーーーーーっっっ
 すまぬでござるすまぬでござる言うでござる白状するでござると言うか別に隠し立てをするつもりはないんでござるてか黒雪さまをお連れしろと言われてここにいるんでござるよって他意はないんでござるよーーーーーっっっ! フヒュフヒュフヒュフヒュ」
瞬時に3mぐらい後ろに飛び退いて、土下座するファフェイ。
 
「しばらく見ない内に、キモさに磨きがかかったわね・・・。」
さすがの黒雪も呆れ果ててしまった。
 
 
「で、誰が来てるって?」
「お后さまでござるーーーーーーーっ! ヒュヒュヒュヒュ」
 
「は?」
 
その場のファフェイ以外の全員が、聞き返した。
「・・・お后さまでござる・・・フフッ。」
ドキマギしながら、テンション低くクネるファフェイ。
 
「? ? ? ? ? ! 」
6秒後にファフェイ以外の全員が叫んだ。
「「「ええええええええええええええええっっっ?」」」
 
 
「お后さまって、“あの” お継母さまの事?」
「東国の王の后が他国へ?」
「しかも城でゴタゴタしてる真っ最中に?」
 
それが事実だと呑み込めたら
次は怒りと恐怖が襲ってきた。
 
「そっ、それは政治上ありえませんよ!」
「あのバカババア、何をチョロチョロしとんのやら!」
「これで東国のお后さまに何かあったら
 益々厄介な状況になるじゃないですかー!」
 
アタフタする3人に、ファフェイが言う。
「だから、おしのびで・・・。」
 
「おまえらが全力で止めんか!
 てか、早く言え!!!」
 
ゴーーーーーーーーーーン!
黒雪が思いっくそ、ファフェイの頭を叩いた。
 
 
ファフェイが頭のコブを押さえて、転げ回ってる横で
3人が深刻な顔で相談する。
 
「私はすぐにお継母さまのところに行くわ。」
「そうですね、あのお方を留め置く事が出来るのは
 奥さましかいないでしょうし。」
「城はどうしましょう?」
レグランドの指示仰ぎに、王子はしばらく考え込んだ。
 
 
「では、私と奥さまはお后さまのところへ行きます。
 あなたとファフェイさんは、協力して城を探ってくだい。」
王子のこの命令に、レグランドは思わず一瞬イヤな顔をした。
 
「ファフェイはああ見えても、能力はあるのよ。」
黒雪の言葉に、へえ? とファフェイを見直しかけるレグランド。
が、それも次のひとことでチャラになる。
 
「特に逃げ足の速さは見事なのよ。」
とことんいやらしい人間である。
 
「ふむ、だったらファフェイを途中に潜ませて
 私たちとの連絡係になってもらって
 城へはレグランドひとりで行った方が良いですね。」
 
王子の言葉に、黒雪も同意する。
「そうね。
 城の者はきっと今頃困ってるはず。
 頭領は私の側近だから、逆に頼ってくるんじゃない?」
 
「まあ、そこまで軽く考えてたら危ないですけど
 王が捕らえたいのは、きっと私と奥さまだけでしょうしね。」
 
 
その後、王子とレグランドが細かい打ち合わせをし
ファフェイは黒雪に念入りにしばかれ
一向は二手に分かれて、歩き始めた。
 
レグランドが振り返ると、王子と黒雪は手を握り合って歩いて行く。
それを微笑ましく思えば思うほど
視界の端をチョロチョロする忍者に、イライラさせられる。
 
 
レグランドには、過酷な任務になった。
親衛隊に就任した直後なのに・・・。
 
 
 続く 
 
 
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黒雪伝説・王の乱 10

レグランドとファフェイは、西の村にいるクレンネルと合っていた。
「城から追っ手は来てないよ。
 と言うか、動きがまったくないみたいなんだ。」
 
レグランドは眉をしかめた。
「それはちょっと解せないね。
 あの王さん、何がしたいんだろう?」
 
「“権力の誇示” じゃないでござるかね、ウフッウフッ。」
「で?」
「へ?」
「誇示して、そしてどうするの?」
 
ファフェイはニタニタしながら、軽く答えた。
「何も考えてないんじゃないでござるかね、ウフッウフッ。」
 
「・・・・・・」
イラ付いて無言になるレグランド。
 
 
「この分だと、多分あたしも移動して良いと思うんだ。
 エジリンが来たら、あたしは東に進もうか?
 この辺ももうすぐ初雪だよ。
 あたしらなら雪山越えも可能だけど
 王都の連中には辛いんじゃないかね。」
 
クレンネルの提案に、レグランドがうなずく。
「そうだね、多分もう西には追っ手は来ない。
 来ても、あまり意味がないし。
 ここは放置で、我々は黒雪さま近辺にいた方が良いね。」
 
 
「クレンネルさんは、荒野と城の間のここに陣取るべきであろう。
 私は城の南東に位置して
 城に潜入するレグランドさんとの
 連絡の中継ぎをいたすとしましょう。」
 
ファフェイのしっかりした喋り方に
レグランドが驚いて、広げた地図から顔を上げると
ファフェイはかけていたメガネを慌てて外した。
 
「メガネ、普段は掛けないんでござる、ヒュヒュヒュ
 似合わないんでござるよー。 恥ずかちーーー! ウフッウフッ」
 
「ちょ、似合う似合わない以前の問題じゃ?」
「そこまでケナさないでほしいでござるよー、ヒュヒュヒュ・・・」
「いや、そうじゃなくて!」
 
 
いきり立つレグランドに、クレンネルが耳打ちをした。
「何て説明するつもりだよ?
 『メガネを取ると気持ち悪いですよ』 ってか?」
 
そう言われたレグランドは納得した。
確かに、誰もそんなひどい事を言えるわけがない。
 
「黒雪さまは、『裸眼のおまえは気持ち悪い』 って
 おっしゃるんですよ、ひどいと思いませんか? フシュッ!」
・・・言ってるじゃん、しかも一番言いそうな人が。
 
 
そこでレグランドは、逆方向から攻めた。
「あたし、メガネをしている人が好きなんだ。
 だからずっとメガネをしていてくれないか?」
 
ファフェイはモジモジしながら、メガネを取り出す。
「うう~ん、惚れないでくださいよおっ? ウフッ」
 
握っていた鉛筆を、ついヘシ折ったレグランドだが
表情はあくまで平静を保つ。
 
 
メガネを装着した途端
ファフェイはキリッとしたインテリ・イケメンになり
レグランドとクレンネルを驚愕させた。
 
ちょ、顔付きまで変わってる!
 
 
「では、あたしはエジリンが来たら東に向かう。
 エジリン、もう今日にも来ると思う。」
 
「うん、あたしは城に忍び込んで
 とにかく状況だけ掴んで伝えるよ。」
 
「そして、それがしはそれを黒雪さまたちにお伝えしよう。」
 
「「 ・・・・・・ 」」
腕組みしてキリッとするファフェイを
呆気に取られて見つめるレグランドとクレンネル。
 
その後、三者は三方向にと歩き始めた。
 
 
 続く 
 
 
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