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黒雪伝説・湯煙情緒 Archive

黒雪伝説・湯煙情緒 1

 北国の王は動揺した。
 
息子が連れて来た結婚相手が
超・兄貴! だったからである。
 
(注: 超兄貴とは、その昔PCエンジンというハードで出た
 伝説のシューティングゲームである。
 と言うか、こういう解説がいる言葉を多用しないでもらいたい。
 えっ? 自分で書いてて人のせい?)
 
真っ黒に日焼けして、筋骨隆々のその婚約者は
本当に女性なのか? と、疑うほどであった。
 
 
だが、そこが逆に国民にウケたのは意外であった。
厳しい気候のせいで、裕福ではない我が国に
あの大国、東国の姫が嫁いでくれる事自体、奇跡だったが
 
体中アザだらけ傷だらけなのに、堂々とウエディングドレスを着る
→ さすが、大国の姫君! ってな具合に。
 
しかもそのアザや傷や日焼けは
我が北国への道を作るためにできたものなのだ。
国民たちは、感謝とともに期待を持って黒雪を歓迎した。
 
 
ふむ、少々気の弱いところのある王子には
このような逞しい姫が良いのかも知れん。
 
王はカイゼルひげを引っ張りながら、納得した。
 
 
「アタシは納得しないですわん!」
黒雪の枝毛だらけの髪をセットしながら
ヘアメイク担当のカマが不満をタレる。
 
「しばらくイベント続きだというのに
 このきったないお肌に、ボッサボサの髪!
 アタシが代わりにドレスを着た方が、よっぽど美しいわん!
 ああ、姫さまのヘアメイク、とっても苦労ーーーっ!!!」
 
 
「ちょ、待て、何故おまえがここにいるの?」
黒雪が問うと、カマが驚愕する。
「あらっ! あらららっ!
 結婚式もアタシ担当だったのに、今頃気付いたんですのん?
 あんまりですわん!
 腐った雑巾のような姫さまを、花嫁へと何とか変身させたのに!」
 
「す・・・、すまん・・・。」
「まあ、いいですわん。
 結婚式なんて誰でもアタフタしてますしねん。
 ・・・あーたは準備中、ずっと寝てたようですけどねん。」
「す・・・、すまん・・・。」
 
 
「ヘアメイクアップアーティストというのは、花形の職なんですのよん。
 特に王室勤めともなると、ファッションリーダーですわん。
 カリスマですわん。
 なのに姫さまに付いて、辺境の国に移住するなんて
 もったいなさすぎますわん。」
 
ベラベラ喋りながらも、テキパキと手を動かす
この、“ヘアメイクアップアーティスト” が
とても有能らしい事は、美容に無頓着な黒雪にもわかった。
 
「へえー、何故おまえは来てくれたの?」
「東国の城には、もうトップがいたのですわん。
 彼には適わないから、アタシは新天地でトップを目指しますわん。
 “鶏口となるも牛後となるなかれ” って言うでしょん?
 牛の中ではビリでも、鶏の中で一番になりゃ良いでしょ、って。」
 
 
「ふむ、そうなのか。
 頑張ってくれ。
 一緒に来てくれて、ありがとう。」
 
その言葉を聞いたカマは、一瞬手を止めて黒雪の顔を見た。
 
「・・・・・・ふーーーっ
 ブスなのに大らかな性格なのよねん、姫さまったら。」
首を振って溜め息を付かれ、黒雪は複雑な気分になった。
「・・・・・・・・・どうも・・・・・・・・・・。」 
 
 
そこへ王子が入ってきた。
「仕度はできましたか? 姫。
 いえ、・・・私の奥さま・・・。」
王子の顔が赤くなるので、黒雪までつられて赤くなる。
 
ふたりの間に花びらが降りかけたところで
カマが割って入る。
 
「もーーーーーっ!
 イチャラコチャラは後でやってくださいよねん!
 まだ準備中ですのよん。
 殿方は出入り禁止ですわん。」
カマがキイキイ言いながら、王子を追い出す。
 
 
「まったく、このゴリ姫の夫が
 あんな美男子なんて、世の中狂ってますわん。」
「えっ、あいつ、美男子なの?」
 
「・・・そういう自覚のないところが、また腹が立ちますわん。
 さあ、さっさと用意しますわよん!」
 
 
カマの逆鱗に触れ、グイグイ髪を引っ張られる黒雪。
こいつに逆らえるヤツは、多分いない。
 
ちなみに彼の名は、キドである。
 
 
 続く
 
 
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       小説・目次  

黒雪伝説・湯煙情緒 2

一週間に及ぶ、結婚のイベントをこなした直後
黒雪は議会で道路建設の指揮を取ると言い出した。
 
莫大な持参金と、大勢の従者を連れて来た大国の姫は
新参なのに、北国の城の中で既に一大勢力を持っていた。
「結婚したばかりなのに、早すぎませんか?」
せいぜいがこの程度の異議しか出ない。
 
 
「浮かれてる場合じゃないと思います。
 それでなくとも、年の半分は雪で身動きが取れないのだから
 動ける内に動いておかないと。」
 
この意見には、もちろん文句は出ない。
「ただ・・・、その・・・、お世継ぎも・・・。」
 
「私も王国で生まれ育った身。
 世継ぎの重要さはわかっております。
 出産は真冬にしますから。」
 
黒雪の言い切りに、会場はどよめいた。
妊娠出産を、そう都合良く出来るものか。
 
だが黒雪の強運さは、そこにあった。
雪が積もるギリギリまで、奔走しつつも
冬に見事に出産するのである。
しかも男女の双子であった。
これにより、北国での黒雪の地位は確固たるものとなった。
 
 
「はあ・・・、出産、すんごいしんどかったわ・・・。」
「お疲れ様でした。
 ありがとう、奥さま。」
王子は感動しきりである。
 
「さすが元ヘビ、多産させられるわー。
 卵で出て来い、っつの。
 双子、この国では不吉じゃないわよね?」
「はい。 むしろ幸運だと言われてるみたいですよ。」
 
 
王子の抱擁を受けながら、ベッドの上で黒雪は考え込んだ。
「何です?
 私の奥さまが恐い顔になっていますよ?」
黒雪の眉間をチョンチョンと王子が突付く。
 
「ああ、いえ、ちょっと気になったんだけど・・・。
 あの王さまって、実のお父さんじゃないわよね?
 王さまの奥さんはいないの?
 そこ、どうなってるの?」
ヒソヒソと王子に耳打ちする黒雪。
 
「この国は母のせいで消えていたらしいのです。
 それを作り直した上に、更に後から私を組み込んだみたいですよ。
 この国の人の記憶では、私は父王の嫡男となってます。
 父王の奥さん、この世界での私の母の事でしょうかね?
 とにかく王妃は、私を産んですぐ死んだ事になってますね。」
 
 
王子の話に、黒雪が首をひねった。
「国の再生はどれぐらい掛かったのかしら?
 あなたをそこに組み込むのは一瞬で出来たの?」
 
王子も少し顔を曇らせた。
「そこがよくわからないんです。
 いつ国の再生が完了したのか。
 でも私が組み込まれたのは、最後のようです。
 どうもところどころ、わからない部分があるんですよね。
 300年前の戦いの時から。」
 
「ふーむ、私たちの結婚も、偶然だけじゃないかもね。」
黒雪の言葉に王子は慌てた。
「えっ? 私はあなたを真剣に愛していますよ!」
 
「そこじゃなくて、この結婚は私たち以外の誰かにとっても
 何かの意味とか、目論みみたいなのがあるのかも、って話よ。
 もう! こういう頭を使う事はあなたがやってよね!
 私は労働担当だから。」
 
「・・・小人さんたちに言われた事を、根に持ってますね?」
王子がクスクス笑った。
「今度あいつらに会ったら、お礼をしないとね。」
鼻息を荒くする黒雪。
 
 
「ふふ、頑張ってくださいね。」
まるで他人事のように言う王子。
「・・・あなた、時々すごく冷たいわよね?」
 
ちょっと引く黒雪に、平然と答える王子。
「どうせ爬虫類ですからね。 ふん。
 でも、あなたにだけは何があっても忠実ですよ。」
 
「へえ? ハブ女王の息子だった事とか、ウソを付いていたのに?」
その言葉を聞いた途端、ガバッと黒雪にしがみつく王子。
「それは本当に謝ります。
 真実がわかったら、全部言いますから!!!」
 
 
え? まだ何か秘密があるの?
と黒雪は思ったけど、まあ、いいや、と流した。
 
筋肉脳は、太っ腹である。
 
 
 続く
 
 
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       小説・目次  

黒雪伝説・湯煙情緒 3

待望の春がそこまでやってきていた。
黒雪は、大臣たちを集めて会議を開いた。
 
「道路建設は東国側の協力もあって、今年中には目途が立つでしょう。
 次の策は、荒野に冬季用の城と街を作る事です。
 今のこの城の場所は、雪に埋もれてしまいます。
 その間、すべてが停滞してしまうのです。
 それでは国力を伸ばせません。
 しかし国土の形状を考えると、この場所に本拠地が必要です。
 よって、ここは春夏秋用として、冬場のみ閉鎖にしましょう。」
 
大臣たちが、うなずきながらも反論する。
「それは我々も考えておりました。
 しかし実現には莫大な費用が掛かります。」
 
「工事には、東国の職人も入れましょう。
 東国にとっては雇用の促進になるので
 私の父にもいくばくか用立ててくれるよう、交渉します。」
 
会場は小さく歓声が上がった。
大国と繋がりができるというのは、こんなにもメリットがあるのか
驚きとともに、閉鎖的だった時代を悔やんだ。
 
 
「だけどそれだけでは、工事費用はまかなえません。
 そこで私は別動で、資源を探してみます。」
「資源?」
 
「ええ。 この広い大地には、絶対に地下資源が眠っているはずです。
 学者たちにも協力してもらって、それらを探します。」
「その資金はどうするんですか?」
「私の持参金を使います。」
 
「ちょっと待ちなさい。」
口を挟んだのは王であった。
「そなたの持参金は、国庫に入った。
 もう使い道は決まっておる。」
 
 
「城の者の衣服や装飾品等ですね?」
王子が書類を手に立ち上がった。
 
「申し訳ありませんが、しばらく皆辛抱してください。
 他国に助けてもらいながら、贅沢な暮らしをしようなど
 失礼というものですよ。」
 
王が明らかにムッとしている。
「あ、じゃあ、捜索は私と少人数でいたしますわ。」
黒雪が手を上げた。
 
「あと、私のドレスは作らないでくださいね。
 もう充分に持っておりますし、正直似合いませんしね。」
あはは、と笑う黒雪に、会場がなごむ。
 
 
「大国の姫など、どんな鼻持ちならないお姫さまかと思っていたら
 気さくな良いお方ではないか。」
「ああ、さすがうちの自慢の王子様がお選びになっただけある。」
 
大臣たちが喜んでいる中、王だけがムッツリとしていた。
王子と王子の妃が、どんどん物事を決めていくのが気に入らないようだ。
 
これが “老害” というやつか。
 
 
 続く
 
 
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       黒雪伝説・湯煙情緒 1 11.3.23  
       
       小説・目次 

黒雪伝説・湯煙情緒 4

「王子さま・・・。」
廊下を歩く王子に、執事がスッと近寄る。
「王さまのご機嫌が少々お悪いようです。
 お気をつけください。」
 
「そこの調節を、何とか頼む。」
「はい、やってはみますが、難しいと思います。」
「王というものは、能のあるなしに関わらず
 気位だけは高いからな・・・。」
溜め息を付く王子。
 
「わかった。 何とかしよう。
 私たちが城を空ける時はおまえは残ってくれ。
 この3人の内のひとりは、必ず城にいるようにしよう。」
「御意。」
執事は黒雪に頭を下げ、去って行った。
 
 
「あの執事も妖精王に許してもらったのね。」
「はい。
 じいは私が生まれた時から側にいてくれた唯一の者です。
 一緒に来る事ができて、本当に助かりました。
 ・・・しかし逆にその厚意が不安なのですよね・・・。」
「どういう意味?」
 
「謀反人の息子に、この温情は過剰ではないですか?
 それとも、私が腹心をも必要とするほど
 この国の復活劇は大変なのでしょうか?」
 
「うーん、そう言われてみれば、手取り足取りよねえ。」
「何か違いますよね? その言い回し。」
「えーと、板れり突くせり?」
「ははは。」
 
 
王子は黒雪の肩を抱き寄せた。
この人がいてくれて本当に良かった、と心から思えた。
 
ひとりだったら、この寒い土地で国の復興など無理だっただろう。
いや、あの時のこの人の涙がなかったら
母の償いをしようなど、思いもしなかったであろう。
この人は、私に心を持たせてくれた。
 
 
王子は、黒雪に口付けをした。
途端、足を思いっきり蹴られた。
 
「うっっっ!!!」
足先を押さえてうずくまる王子。
 
「あ、ごめんごめん。
 でも歩きながら他の事をすると
 ほぼ八割方、痛い目に遭うわよ。」
 
 
「・・・・・・・・・・・」
王子は涙目で黒雪を見上げた。
黒雪はヘラヘラと笑っていた。
 
「・・・このぐらいの痛み、あなたは平気でしょうけどね・・・。」
「それどころか、自分の傷自慢に発展するけどね。」
「これだから肉体派は・・・。」
 
王子がブツブツ言いながらも、痛がってるので
黒雪が王子を抱きかかえた。
「ちょっと! 止めてください!!」
 
「部屋まで連れてってあげるわよ、痛いでしょ?」
「お願いですから、お姫さま抱っこだけは
 私から奪わないでくださいーーーーー。」
 
 
王子の号泣に黒雪は動揺し、慌てて床におろした。
「あなたには男のプライドなんかわからないんですっ!」
 
廊下に座り込んで、しかも女座りで泣き喚いている時点で
男の沽券は台無しじゃないだろうか?
 
 
とは言えないので、黒雪は王子の横にしゃがんで
ごめんね、と背中を撫ぜながら謝った。
 
王子と妃なのに、何をやっとんのか
ほら、家臣たちが遠巻きに見てるぞ。
 
 
 続く
 
 
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       黒雪伝説・湯煙情緒 1 11.3.23  
       
       小説・目次   

黒雪伝説・湯煙情緒 5

王子が寝室に戻ると、黒雪が紙の束を持ってベッドの上に立っていた。
「何をしてるんですか?」
 
「あら、もう寝るの? ちょっと待って
 危ないから、部屋の向こうの端っこに行ってて。」
 
「はあ・・・」
王子が部屋の隅に行くと、黒雪姫はヘアバンドで目隠しをした。
そして持ってた紙束を宙に放り投げる。
その後、ベッドの上でばいーんばいーんと飛び始めた。
 
「???????」
王子があまりのわけわからなさに、動揺し始めた時
「そこだあああああああっっっ!」
と、黒雪がベッドの上から床へとダイヴした。
黒雪の持ってたキリが、床にグサーッと突き刺さる。
 
 
黒雪が目隠しを外し、キリに刺さった紙を拾い上げる。
「ふうむ・・・。」
 
「あの・・・・・・?」
王子が部屋の隅から声を掛けると
黒雪はようやく王子を思い出したようだ。
「あ、ごめんごめん、もういいわよ。
 紙を拾うのを手伝って。」
 
せっせせっせと拾い集めた紙を見たら、どうやら地図のようだ。
「それで何をしてたんです?」
「うん、調査に行く地を決めてたの。」
「はあ?????」
 
 
「この前、他の誰かの意思が関係してそう、って言ってたでしょ?
 それが本当なら、私たちがランダムに選んでも
 そいつの行って欲しい場所に設定されるんじゃないか、と思ってね。」
 
「なるほど・・・。 それは一理ありますね。」
「でしょー?」
黒雪は嬉しそうに威張った。
 
王子が黒雪の笑顔にキュンときて
いとおしそうに頬にチュッチュチュッチュしながら訊く。
「で、どこになったんです?」
「ここ。」
「えーと・・・。」
 
王子は全体地図と見比べながら、穴の開いた場所を探した。
「ああ、国の南東の端ですね。
 荒野の向こうはじですよ。
 ここなら途中まで東国との道を行けるから
 行き来もラクで・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・。」
 
 
王子は部分地図の穴に改めて気付き、足元を見た。
「奥さま・・・、次からは他の選出法にしてください!
 いくら貧乏国とは言え、一応、王子妃の寝室
 このじゅうたん、高価なんですよっ。」
 
「でへへー。」
黒雪がベッドに潜り込む。
「『でへへ』 じゃありません!」
怒る王子だったが、すぐにデレデレし始めた。
 
「こういうのって、“新婚” ですよねえ。」
布団をめくると、黒雪は既にヨダレを垂らして寝ていた。
 
 
「・・・・・・・・
 何で頭を使わない人って、寝付きが良いんでしょうね・・・。」
 
気にするな。 不眠症のヒガミだ。
 
 
 続く
 
 
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       黒雪伝説・湯煙情緒 1 11.3.23  
       
       小説・目次 

黒雪伝説・湯煙情緒 6

「ねえ、用意できたあ?」
黒雪が王子の書斎を覗くと、荷物が山のように置かれていた。
 
「うわっ、何? この大荷物!
 あなた、夜逃げの練習してない?」
「備えあれば憂いなし、って言うでしょう。」
 
「これ、誰が持つの?
 ふたりだけで行くのよ?
 私には私の荷物があるのよ、あなた、持てるの?」
 
「えっ、何でふたりだけ?」
「人が多くても足手まといなだけ、と
 昔のサバイバルで、ものすごく学んだから!」
「・・・ああ・・・、あなた、徹頭徹尾そういう態度でしたね・・・。」
 
 
黒雪が荷物を覗き込む。
「何が入ってるのよ、このバッグの数々。
 鍋、フライパン、包丁、まな板、コップ、茶碗、諸々の食器類
 下着、寝巻き、朝用普段着、昼用普段着、夜用普段着
 スリッパ、靴、香水、小説、辞書、etc、etc
 アホかああああああああああっっっ!」
 
黒雪はバッグをちゃぶ台返しした。
「どこにお呼ばれですかっ、それともお引越しですかっ!」
 
「わかってますよ、ふたりだけなら厳選しますよ。」
「とうっ!!!」
王子が選んだ事典を、黒雪が手刀で叩き落した。
 
「ふざけてるのかしら?」
 
「ふざけてませんよっ!
 これは野草の事典なんです!
 知識は現地調達できませんからねっ。
 そういうあなたは何を持って行くんですか?
 それはそれは、なくてはならないものなんでしょうねっ!」
 
 
ふたりでワアワア怒鳴り合いながら、黒雪の部屋へとなだれ込む。
「はあっっっ?
 アックス、ハンマー、モーニングスター、クレイモア、
 マチェット、クロスボウ、スリングショット
 全部武器、しかも腕力頼りの武器ばっかりじゃないですか!!!」
 
「あなたが武器名を全部知ってるのが驚きだわ・・・。」
「私は知力特化キャラですからね。」
「だったら草の名前ぐらい全部記憶しといてよ!」
「一応大体の暗記はしましたけど、念のためですよ、念のため!」
 
 
しこたま怒鳴り合い、ハアハア言いながら睨み合う。
「・・・初夫婦ゲンカじゃないですか?」
 
王子が怒った表情ながらも、フラグを立てようとするのを
黒雪は素早く阻止する。
「そうかも知れないけど、記念日とかにするのは止めてね?」
「わかってますけど、何事も “初” は1度きりなんですよ?」
 
黒雪がフーッと息を吐きながら
ポージングをし、全身の筋肉を盛り上げた。
 
「ラブラブ “恋バナ” が、こういう面倒臭いものなら
 この話、速攻で血と臓物のスプラッタ劇にする自信があるけど?」
「ひいいいいいいいいいいっ・・・。」
 
 
黒雪の脅し勝ちである。
 
「・・・とりあえず、お互いに荷物を見直しましょう・・・。」
「・・・そうね・・・。」
 
無言でそれぞれの荷物の整理に取り掛かるふたり。
市原悦子レベルじゃなくても、召使いたちには全部聴こえていた。
 
 
 続く
 
 
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       黒雪伝説・湯煙情緒 1 11.3.23  
       
       小説・目次 

黒雪伝説・湯煙情緒 7

凄い勢いでザカザカ歩いていた足を止める黒雪。
振り向く後方に、王子がノタノタ歩いている。
 
「いつまでブーたれてるの?」
王子はうつむいたまま、ボソッとつぶやく。
「だって、あんな言い方しなくても・・・。」
 
 
王子と黒雪がふたりで探索に出ると言うと
当然、周囲は止めに入り、誰か彼か付いてくると言い張った。
黒雪はその意見を、ひとことで黙らせた。
 
「今の内に種を仕込まにゃならんから、付いてくるな!
 じゃないと、冬に出産が間に合わん。」
 
 
「皆、黙って見送ってくれたでしょ?」
「そうかも知れないけど、私たちの愛を汚された気がする・・・。」
 
その湿った態度に、イライラしてきたのか
王子の肩を黒雪が人差し指でドスドス突付きながら言う。
 
「あなたは爬虫類だから、わからないかも知れないけど
 人間はそうボロボロ子供は出来ないのよ。
 隙あらば作っておかないと、子孫が繁栄しないの!」
 
「そんな、人を産む機械のように・・・。」
「どこぞのムチャ振り平等人権団体と同じ抗議をすな!
 王族は産む機械なのよ。
 継承権が揺らぐと、国自体が揺らぐの!
 税金で生きてる以上、個人の感情は二の次なの!
 それが人間の王族の務めなの!
 あなたも人間になったのなら、自覚してね。」
 
 
黒雪がギャアギャア怒鳴るその肩越しに、動くものがかすかに見える。
王子は指を口にあてて黒雪を岩陰に誘導し、望遠鏡を取り出した。
 
「・・・やっぱりあなたの言う通り、ふたりで来て正解でした・・・。」
王子がささやいて、黒雪に望遠鏡を覗かせた。
 
チョッキのウサギが走ってくる。
 
「“あれ” の説明を、従者にどうすれば良いのか、わかりませんものね。」
頭を振り溜め息を付く王子の隣で、黒雪は無言で大ナタを取り出した。
 
 
「ダメーーーーーーーーッ!」
王子が小声で怒鳴る。
「何? またご親切に逃がしてやるつもりなの?」
今にも走り出そうとする黒雪を、王子が必死で止める。
 
「止めてくださいーーーっっっ!
 この話、今までNO死人、という快挙なんですよ?
 こいつがこんな展開の話を書くなんて、もう二度とないですよ?」
 
「・・・あれ、人じゃないし。」
「NO死体!
 ずっとこのまま、メルヘンで行きたいんです。
 どうか、恋バナ、お願いします!!!」
 
黒雪はチッと舌打ちをしながら、大ナタをしまいスリングを取り出した。
姫出身とは思えないガラの悪さである。
 
 
黒雪の撃ったそこらの石は、見事にウサギの腹に命中した。
「あっ、当たった! 凄い!
 あなた、本当に戦闘は天才的ですね。」
王子が褒めながら横を向くと、黒雪はもういなかった。
撃ったと同時に、ウサギの側へと走り寄っていたのである。
 
 
ふふ・・・、今夜はウサギのシチューね
“食材” ゲットは、殺生だけど殺戮ではないわよ
メルヘンでもロマンスでも、腹が減るのが自然の摂理!
 
 
黒雪が邪悪な笑みを浮かべながら、包丁を振りかざした。
 
 
 続く
 
 
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       黒雪伝説・湯煙情緒 1 11.3.23  
       
       小説・目次 

黒雪伝説・湯煙情緒 8

 ご苦労だったー
 
宙に声が響き、巨大な手が現われ、ウサギを掴んで消えた。
 
 
「誰ですか!」
叫んだのは王子である。
黒雪は振り下ろした包丁が宙を切り、反動で脳天からコケていた。
 
 この者の王である
 我々が他界で動くのはご法度
 始末に困っておったのだ
 
「え? 誰? 何だって?」
ノンキに空中に訊き返す黒雪を揺さぶり
黙らっしゃい! とパントマイムをした王子が
代わりに空へと質問をする。
 
 
「あなたのお仲間は、まだこの世界に散らばっていますよね?
 私たちに捕まえて欲しい、という事ですか?」
 
 うむ・・・
 生死は問わぬが、出来るなら生け捕りにしてもらいたい
 
「その報酬は?」
黒雪のセリフに、王子がギョッとする。
 
 何が望みだ?
 
制止しようとする王子を逆に押さえつけて、黒雪が叫ぶ。
「国内で今から300年間は、金、銀、鉄、銅
 500年後はダイヤモンド、ルビー、石炭、800年後には石油
 1000年後からはレアメタルが採れるようにしてほしいーーー!」
 
 
「な、何という欲張りな事を・・・。」
「この王さまには、このぐらい軽いもんだと思う。」
青ざめる王子と、平然としている黒雪。
 
 ふふ・・・
 界をまたぐ戦よりは安い、と値踏んだか 娘
 
 ならば、1匹捕える毎に鉱脈を教えよう。
 珍しくどちらにも損のない取り引きだが、やむをえぬ
 では、頼んだぞ
 
 
「・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・いなくなった?」
 
重く暗かった空気が一掃された途端、王子が頭を抱えて叫んだ。
 
「あああああああああああああっっっ!!!」
 
ビクッとする黒雪。
「ど、どうしたの?」
 
「あ・・・、あなた・・・、今のが誰か知ってるんですか?」
黒雪は、さあ? と首をかしげる。
王子はガックリ、肩を落とした。
 
「でしょうね・・・
 知っていたらああいう口は利けないでしょうしね。」
この言い草に、黒雪がムッとする。
「あなたのそういう誘い受けなとこ、イライラするわ。」
 
 
王子はカッとなり、黒雪の両肩を掴んだ。
「良いですか? おバカさん
 あれ・・・、多分、魔王ですよ!
 あなたは魔王と取り引きをしたんですよ!!!」
 
「まおう?
 魔界の王さまって事?
 何でここに魔王が出てくるの?」
 
黒雪の緊迫感のなさに王子は益々落胆したが、それもしょうがない事。
普通の人間は、他の “界” が現実に存在する事すら知らないのである。
 
 
王子は、しばらく無言で考え込んでいたが
頭の整理が出来たのか、話し始めた。
 
「一連の出来事で、私にもわからない事がいくつかあるんです。
 だけどそれも魔界が関わってたとしたら
 つじつまが合う部分もあるんですよね。」
 
 
 続く
 
 
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       黒雪伝説・湯煙情緒 1 11.3.23  
       
       小説・目次 

黒雪伝説・湯煙情緒 9

「前に荒野に飛ばされた時に、私はここが魔界かと思ったんです。
 普通、界の行き来は出来ないから
 私も妖精界から出た事がなく、人間界の風景を知らなかったんです。」
 
たきぎを集めて回る黒雪姫の後ろを
ただ付いて来ながら、話す王子。
 
「それに、ウサギやトランプの兵、あの者たちに
 妖精界の雰囲気を感じなかったんです。」
 
「私の事は人間だとすぐわかった?」
火をおこしながら、黒雪が訊く。
「・・・まあ、妖精界の者ではないんじゃないかな? みたいな?」
 
黒雪が横目でジロリと睨むので、慌てて言いつくろう。
「だから妖精以外、知らないんですって。」
「まあ、いいわ。 そんで?」
 
「ずっと抱いてきた疑問の答が、ひとつ見つかった気がするんです。」
 
 
深刻な話になってきそうなのに、黒雪は鍋を抱えてウロウロする。
「チッ、用意の順番を間違ったわ・・・。」
黒雪は岩陰の残り雪を鍋に入れ始めた。
 
「何をやってるんです?」
「・・・川、池、水溜り等がない・・・。」
「まさか、それでスープを作るんですか?
 イヤですよーーーーー、泥混じりじゃないですか。」
 
「地べたを這いずる生き物のくせに、よく言うわ。」
「今は人間です!
 ほら、水があるところまで歩きますよ。」
「ええええええ、もうお腹減ったーーーーー。」
 
 
「ん? 何だか前にも同じ展開があったような・・・?」
王子はしばし考え込んだが、ポンと手を打った。
「お茶会ですよ!」
 
「ああ! テーブルんとこに猫がいたわよね。
 あれも、きっと魔界属性よね。
 行って捕まえたら、鉱山が貰えるんじゃない?
 ・・・あれ? そう言えば、猫で思い出したけど
 女王って・・・。」
 
黒雪が王子の顔を見る。
王子は、険しい表情になっている。
「答えなくても良いけど、あなたのママン、魔界出身?」
 
「答えますよ、そんな誤解!
 母は魔界出身じゃありません。
 妖精王と共に、妖精界を統べる立場のひとりでした。
 だから “女王” と冠されているのです。」
 
「へえ、そんなお偉いさんだったんだー?
 ショッカーの怪人のひとりのようなもんかと思ってたわ。」
「・・・失礼な・・・。」
 
 
集めたたきぎを抱えて歩く黒雪が、つぶやいた。
「ん? 何だかおかしくない?
 ハブ女王って鏡に封印されてたんだよね。
 妖精王はそれを知らなかったって言ってたよね?
 あなたの存在も知らない、って言ってたよね?」
 
「ちょっと時系列を整理してみましょう。」
 
王子はリュックからノートを取り出した。
黒雪が慌てて先制した。
「夢見心地なポエムとか見せられるのは勘弁ね。」
 
王子は黒雪をゲンコしたが、最初に開いたページは閉じた。
 
 
ポエム、書いてたらしい。
実は見て欲しかったらしい。
 
 
 続く
 
 
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       小説・目次 

黒雪伝説・湯煙情緒 10

 300年ぐらい前 ハブ女王 謀反 妖精王勝利 ハブ女王死亡
          人間界 北国の村 鏡のせいで滅びる
 
 10数年前 妖精界の結界に穴
       人間界 東国の后がおかしくなる
 
 その数年後 黒雪姫 妖精界に迷い込む
 
「この間、妖精界の結界が破られたのは1度。
 そして、私が生まれたのはこの頃。」
王子がペンで突付いたところを見て、黒雪が驚く。
「あなた、いくつ?」
 
 
「大体あなたより、50歳ぐらい上なだけですよ。」
「ええええええええええええええっ???」
 
「私は母の謀反の少し前に産まれて、ずっと繭の中にいたんです。
 孵化したのがこの時、謀反から250年後ぐらいなんですよ。」
「マユ? 何でヘビが繭?」
 
ズケズケとヘビ呼ばわりする黒雪に、王子が溜め息を付く。
「妖精界でも私は人間の姿だったでしょう?
 私は元々、人型なのですよ。」
 
 
黒雪は少しうつむいて、それから王子の顔を見た。
「にしても、何で繭?
 訊きにくい事を訊くかも知れないけど、あなたの父親は誰なの?」
 
「本当によく訊けますよね、そういう事。
 こっちが言うまで訊かないであげるのが、思いやりでしょうに。」
「だって後出し後出しで、もうゴッチャゴチャじゃん。
 それに父親不在とか、よくある話だし。」
 
黒雪が うちなんか母子で殺し合いしてたのよおー と嘆くので
王子は、つい笑ってしまった。
「父親、誰かわからないんです。
 母に訊いても答えてくれないし・・・。」
 
 
黒雪は少し困ったような顔になった。
「あのね、何となくひらめいただけなんだけど
 あなたのお父さん、神さまなんじゃない?」
「はあっ??????」
 
黒雪の突拍子もない意見に、王子は驚愕した。
「だっておかあさんヘビなのに、あなた人型でしょ。
 人に似てるのって、神界の人なんじゃない?
 ウサギやら猫やらトランプ兵士やら、魔界人、人型じゃないし
 あなたに遺伝してるのって、人間か神かのどっちかだと思うわよ。
 で、絶対に人間じゃないわよ。 繭だし。」
 
 
考え込む王子に、なおも続ける黒雪。
「それに、あの時の荒野に妖精王が来るのはわかるわよ。
 でも何で神さままでシャシャッてくるの?
 ハブ女王と妖精界に、神さま何か関係してるの?」
 
「いえ、それは・・・、人間界は神さまの管轄ですから・・・。」
「じゃあ、以前から妖精王と神さまが示し合わせていたの?
 あの時タイミング良く現われたよね、神さまたち。
 しかも同時に。
 何かおかしくない?」
そう言われると、確かにそうである。
 
 
「あなた言ってたじゃん、謀反人の子に厚遇すぎる、って。
 もしかしてさ、あなた、謀反人の子扱いじゃなく
 神さまの子扱いなんじゃないの?」
 
何でもない口調の黒雪に
この人は自分の言葉の意味をわかって言ってるんだろうか?
と、王子は、その大それた考えに不安になった。
 
 
 続く
 
 
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