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イキテレラ Archive

イキテレラ 1

大きな城下町の隅っこの、大きな家の裏庭で
その家の娘、イキテレラが洗濯をしていた。
そこに声を掛けたのは、野菜売りの女。
 
「こんにちは、何か入り用はないかい?」
「そうねえ、最近お義姉さまたちが少し太ってきていらっしゃるから
 さっぱりしたスープを考えてるんだけど・・・。」
「だったら今朝採れたばかりのカブはどうだい?」
「あら、それは良いわねえ。」
 
 
野菜を選びながら、世間話に花が咲く。
「しかし、あんたもよく辛抱しているねえ。
 この家の直系はあんたなんだろ?
 なのに後妻とその連れ子たちに、召使いのようにコキ使われて。」
 
野菜売りの同情に、イキテレラは微笑んだ。
「良いのよ、わたくし、家事には慣れていますもの。
 お義母さまたちも、悪いお方じゃないと信じていますの。
 尽くしていれば、いつか仲良くなれますわ。」
 
家の中から、女性のヒステリックな声がする。
「イキテレラ! イキテレラ、どこなの!」
「あら、上のお義姉さまが呼んでらっしゃるわ。」
 
その声を聞き、野菜売りが絶望的な顔をして
まあ頑張んな、とイキテレラに言い残して去って行った。
 
 
「何ですの? お義姉さま。」
「イキテレラ、あんたにこの前頼んだドレス、どうなってるの?」
「それなら、もう出来ておりますわ。」
「出来たんなら、さっさと持って来なさいよ!」
 
姉に手直ししたドレスを着せる。
「胸元の切り替えを鋭角なデザインにしてみましたの。
 ああ、ほら、こちらの方がずっとお似合いですわ。」
 
鏡の前で、義姉が納得したように胸を張る。
イキテレラが、肩のラインを整えながら言う。
「今度からドレスを新調なさる時は
 首が少しでも長く見えるものをお頼みになるべきですわ。
 お義姉さまの魅力が引き立ちましてよ。」
 
 
「イキテレラ! イキテレラ!」
下の義姉が叫んでいる。
「お義姉さま、何でしょう?」
 
「今夜のメニューは何なの?
 あんた、用意が遅いんだから、さっさと取り掛かんなさいよ。」
「はい、ただいま。
 今夜はキジ肉のローストにカブのスープです。」
 
「はあ? たったそれだけ?」
「ええ、お義姉さま、この前の採寸の時に
 かなりサイズが変わってらっしゃったでしょう?
 少しお食事を控えた方がよろしいと思いますの。
 このままじゃ、ドレスを全部新調しなきゃならなくなりますわ。」
 
 
「それは困る。」
現われたのは、イキテレラの父親であった。
「うちは貴族とは言え、財政が厳しいのだ。
 娘たちよ、我慢しておくれ。」
義理とは言え、父にはそう強くも言えず、義姉は無言で部屋を出て行った。
 
「イキテレラ、おまえにも苦労をかけてすまないのお。」
父の言葉に、イキテレラは優しく答えた。
 
「良いのですよ、お父さま。
 ご病弱なお父さまに、働けと言う方が間違っていますわ。
 さあ、お体に障りますから、お部屋でお休みになっていて。」
イキテレラは父を寝室へと送っていった。
 
 
気も体も弱い父と、意地悪な後妻とその連れ子の2人の姉
イキテレラは朝から晩まで、家事に追われる日々であった。
 
 
 続く
 
 
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イキテレラ 2

義母と義姉が浮き足立っていた。
この街では、貴族の娘は適齢になると
城で開かれる舞踏会で、社交デビューをするのである。
義姉ふたりに、その招待状が届いたのである。
 
「ああ、私の娘たちがいよいよ社交界に出るのね。
 もっと派手なドレスを作らなければ。」
 
夢見心地の義母に、父が言う。
「しかし、おまえ、この前ドレスを作ったばかりなのに・・・。」
「このパーティーは特別なものですのよ!
 どこかの殿方に見初められるかも知れません。
 そのためにも、より美しく装わせて送り出すのが親の務めです!」
 
娘の結婚、すなわち持参金
それを想像しただけで、父親は腹が痛くなった。
 
 
裏庭でじゃがいもの皮を剥いているイキテレラの視界に、靴が入り込んだ。
顔を上げると、2人の義姉が立っている。
 
「ふっふーん、イキテレラ、私たち舞踏会に呼ばれたのよ。」
「おめでとうございます、お義姉さまがた。」
 
イキテレラがニッコリと微笑んで言うと
義姉たちが顔を見合わせてクスクスと笑う。
「実はねえ、あなたにも来てるのよ、招待状。」
 
「だけど」
「あなたには」
「行かせてあげない。」
義姉たちは、高く掲げた招待状に、火を点けた。
 
 
燃えながら舞い落ちる招待状を見て
ビックリしているイキテレラに満足したのか
義姉ふたりは笑い声を上げながら走り去って行った。
 
イキテレラは、燃え残った招待状の切れ端を拾った。
「ひどい事をするねえ。」
声の方向を見ると、見慣れぬ老婆が垣根の向こうに立っている。
 
「いえ、はしゃいでらっしゃるだけですわ。」
イキテレラは、事もなげに言った。
 
「あんたにも良い事があるよう、祈っといてやるよ。」
老婆はそうつぶやきながら、ブラブラとどこかへ歩いて行った。
 
 
舞踏会の日になった。
義母と義姉たちは、朝から用意で大騒ぎである。
 
手伝っているイキテレラを、父が呼び止めた。
「すまない、娘3人の仕度はうちは無理なのだ・・・。」
「良いのですよ、お父さま。
 そのような事でお悩みになると、お体に障りますわ。
 お義姉さまたちの準備はわたくしに任せて
 お父さまはゆっくり寝ていらして。」
 
「イキテレラ!」
義母の声に、イキテレラは歩き出した。
 
 
やっと今日一日が終わった・・・。
食事を取るヒマさえなかったのである。
 
義姉たちを送り出して、さすがに疲れたのか
イキテレラがベッドでウトウトとし始めた時
窓ガラスがカツンカツンと鳴った。
 
その音にハッと目が覚め、窓を開けると
先日の老婆が立っていた。
 
「あんたにひとつ奇跡をあげようじゃないか。」
老婆は、ヒヒヒと笑った。
 
 
 続く
 
 
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イキテレラ 3

「おばあさま、うちよりも北角のおうちの方が裕福ですわよ。」
窓を閉めようとするイキテレラに、老婆が慌てて言った。
「待ちな、あたしゃ物乞いじゃないよ、魔女なんだ。」
 
「魔女?」
窓を閉める手を止めるイキテレラ。
「ああ、そうだよ。
 あんたがあまりにも不憫なんで
 ちょっと助けてあげたくなっちゃってね。」
 
 
魔女が持っていた杖を振ると
イキテレラのボロ服が美しいドレスへと変わった。
 
「お次はこれだね。」
庭に生っているカボチャが馬車に
下水から顔を覗かせたネズミが馬に
垣根を渡っていた猫が御者になった。
 
「おおっと、いけない、靴を忘れていた!
 えーと、えーと・・・。」
あたりを見回すも、靴になりそうなものはない。
 
「ちょっと待ってな。」
魔女は一瞬にして消えた。
かと思ったら、次の瞬間には戻ってきた。
「靴はこれで我慢しとくれ。」
 
 
「髪もメイクも、鬼盛りしておいたから
 義姉たちにも気付かれる心配はないよ。
 ・・・どうしたんだい?」
 
美しいドレスに、豪華な髪型になったイキテレラは
呆然と立ちすくんでいた。
 
「これで何をしろとおっしゃるの?」
「だからお城の舞踏会に行かせてあげる、って言ってるんだよ。」
 
 
イキテレラは、フッと笑った。
「空腹なのに、プレゼントがダンスとは・・・。
 ああ、いえ、それも “奇跡” でしょうし
 価値観は人それぞれですわよね。」
 
「何だい? 気に入らなかったかい?」
「いいえ、とんでもない。
 そのお気持ちだけでも嬉しいですわ。
 お城に行けば、何か食べるものもあるでしょう。」
 
「ああ、あんたが欲しい奇跡はお菓子の家の方かい。
 すまないけど、プレゼントってのは
 相手が欲しい物じゃなく、自分があげたい物を贈るものなんだよ。
 さあ、これを履いて。」
 
 
魔女が差し出した靴に、足を入れてイキテレラは叫んだ。
「冷たい! これ、何ですの?」
 
「ガラスで出来た靴だよ。
 それしかないんだ。」
こんなモロそうな靴、大丈夫かしら、とイキテレラはちゅうちょしたが
仕方なく履いてみると、足にピッタリとフィットした。
 
「まあ! あつらえたようにピッタリだわ。」
「それは元々あんた用の靴なんだよ。」
「どういう意味ですの?」
 
 
「今、説明する時間はないんだよ。
 舞踏会はもう始まっている。
 これらの魔法は、今夜の12時で解けてしまう。
 あんたはそれまでにここに帰って来なければならない。
 急いで行かないと、間に合わないよ。」
 
「あらまあ、段取りが悪いですわね。」
「いいから、行っといで!」
 
イキテレラを乗せたカボチャの馬車が走り出した。
 
 
 続く
 
 
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イキテレラ 4

イキテレラが会場に着くと、あたりにどよめきが起こった。
「あの美しいお嬢さんはどちらの方かしら?」
誰も街の端っこの貧乏貴族の娘だとは気付かない。
 
皆の注目をよそに、イキテレラはテーブルへと真っ直ぐに向かった。
テーブルの上には、ナビスコリッツパーティーレベルのおつまみしかない。
給仕係が、ショートグラスの乗ったトレイを差し出してくる。
 
空腹にアルコールなんて、冗談じゃないわ
イキテレラは手を振って断った。
 
 
舞踏会は晩餐会とは違うのね・・・。
ガックリしたイキテレラが、とにかくクラッカーでもいいから
腹に入れよう、と伸ばしたその腕を掴まれた。
 
「私と踊っていただけますか?」
「あ、いいえ、わたくしあまり踊れませんの。」
男性の顔も見なかったのは、面倒くさかったからである。
 
「どうか断らないでください。」
懇願している口調とは裏腹に
男性はイキテレラを強引にホールの中央に連れて行く。
イキテレラは、空腹の上に運動までせねばならない事に
果てしなく落胆した。
 
 
しょうがないわ、適当に踊ったらさっさと切り上げましょう
そう思うのだが、男性が手を離してくれない。
 
空腹と疲労で注意力が散漫になっているせいか
気付かなかったのだが、かなり背が高い男性で
イキテレラはほぼ抱えられる形で振り回されていた。
 
男性がしきりに何かをささやきかけるが
イキテレラの神経は、テーブルの上のカナッペに注がれていた。
ああ・・・、どんどん食い散らかされていく・・・。
 
 
「あの、どうかもうこのへんで・・・。」
「ダメですよ、私は今宵あなたに魅了されたのですから。」
 
何なの? この人、色キチガイなの?
変質者に捕まってしまったのかしら・・・
イキテレラは自分の運のなさに、悲しくなってきた。
 
「あなたに一体何があったのです?
 その憂いを秘めた瞳が私を捉えて離しません。」
 
離さないのはあなたの方でしょう
わたくしはお腹が空いて欝ってるのです!!!
メルヘンはどっかよそでやってくださいーーーーー (泣)
イキテレラは、目でリッツをずっと追っていた。
 
 
時計の音が響いた。
イキテレラはハッとした。
「今、何時ですの?」
「時間などふたりには関係ないでしょう?」
 
時刻すら答えられないとは
この人は、どこまで能無しの役立たずなのかしら?
イキテレラはグルグルとタ-ンをされながら、時計を探した。
 
あ、あった、さっきのは11時の時報だわ
家からここまで馬車で1時間は掛かった。
もう帰らないと、途中で魔法が解けてしまう。
 
イキテレラは、男性のスネを思いっきり蹴った。
男性がうっ、と怯んだ瞬間、出口へと走り出した。
 
 
階段を駆け下りるイキテレラの背後で声がした。
「待ってください、姫!」
 
信じられない、思いっきり蹴ったのに!
わけのわからない執着心といい、この人、人間なの?
イキテレラはケダモノに襲われる恐怖に駆られた。
その瞬間、高いヒールが傾いた。
 
 
転んだイキテレラに、男性が迫る。
「大丈夫ですか? 姫」
 
いやああああああああ、来ないでえええええええ
 
イキテレラは思わず、靴を男性に投げつけた。
 
パリーンと割れる音が聞こえたけど、構わずに馬車へと急ぐ。
「猫に言葉が通じるかわからないけど、急いで帰って!」
馬車に乗り込んだイキテレラは、御者に叫んだ。
 
 
走り出した馬車の中から振り返ると、階段に人が群がっていて
その中心に倒れているであろう男性の足が見えた。
 
ごめんなさいね、イキテレラは心の中で謝った。
でも、しつこいあなたがいけないのよ。
 
 
 続く
 
 
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イキテレラ 5

翌日のイキテレラは、グッタリだった。
途中で魔法が解け、重いカボチャを抱えて歩くハメになったのだ。
貧乏なので、1個の野菜もムダにしたくない。
家に着いた時には、もう朝方の4時を回っていた。
 
義姉たちの社交界デビューの準備で、いつもよりも仕事が増え
飯も食えずに踊らされ、歩いて帰らされ、寝る時間もなく
おまけに今日の義姉たちの機嫌は最悪である。
舞踏会で誰にも相手にされなかったのだろう。
 
それでもわたくしよりはマシよ。
イキテレラには、魔女の “奇跡” は大迷惑にしかならなかった。
 
 
長い一日がやっと終わり、イキテレラが自室に戻ると
窓の外には魔女が立っていた。
 
「ああ、どうも・・・。」
イキテレラは億劫そうな表情で、魔女に靴を返した。
「片方だけかい?」
 
「すみません、もう片方はなくしてしまいましたの。」
「ううむ・・・、それはマズいねえ・・・。
 でもまあ、しょうがないか。」
 
「では、ごきげんよう。」
イキテレラが窓を閉めようとするのを、魔女が止める。
「ちょっ、ちょっと、それだけかい?」
 
「ああ・・・、お心遣い本当にありがとうございました。
 魔女さまのご健勝をお祈り申し上げておりますわ。
 では、所用がございますので、これにて。」
 
イキテレラは、棒読みを終えて窓を閉めた。
魔女は首をかしげつつ、帰って行った。
 
 
いつもの日々が戻ってきた。
何事もないのが一番だわ、そう思いつつ
イキテレラが草むしりをしていると、辻の方が騒がしい。
 
何かしら? と、顔を覗かせると
辻に立っている掲示板に張り紙がしてあった。
 
 
『先日の舞踏会にて、靴をお忘れの姫君
 預かっていますので、取りにおいでください。
                   王子 』
 
張り紙を読んで、ギョッとした。
あのしつこい男性は、この国の王子さまだったらしい。
 
証拠は靴しかないし、バレないわよね
にしても、何故こうトラブル続きなのかしら・・・
イキテレラは溜め息を付いた。
 
 
街中が、また浮き足立った。
 
「王子が靴の持ち主を探している」
    ↓
「王子が靴の持ち主に恋をしたらしい」
    ↓
「靴の持ち主は王子と結婚できるらしい」
    ↓
「靴が足に合えば王子と結婚できるらしい」
 
噂が、アホウ参加の伝言ゲームのように形を変え
街中の娘が、連日城に押し寄せていた。
 
 
何をどう考えたら、話がそうなるのかしら?
私はあの時、王子の言葉に返事もせず目も合わせず
イヤそうに踊ったあげくに、むこうずねにケリを入れて
おまけに靴を投げつけたのよね。
あの張り紙は、罠よ。
ノコノコ行ったら、不敬罪で捕えられて禁固刑、いえ、死刑だわ。
 
おお、いやだいやだ、恐ろしい
ビクビクするイキテレラの後ろで
義姉たちが靴合わせにチャレンジする、と張り切っている。
 
 
義姉たちを見送り、振り向いたイキテレラの鼻先に魔女の顔があった。
不意打ちに声も出ないほど驚くイキテレラに、魔女が言う。
「義姉たちの靴じゃないのに、止めないのかい?」
「心配しなくても、あの靴は普通の女性には入りませんわ。」
 
「名乗り出ないのかい?」
「申し訳ないとは思っているけど、あれは事故だったのよ。」
「・・・? あんた、一体何をしてきたんだね?」
 
 
イキテレラは、舞踏会での一部始終を魔女に打ち明けた。
魔女は大笑いをしながら言った。
「だから、あんた、機嫌が悪かったんだねえ。」
 
「ええ、もう忘れたいの。
 だからわたくしの前に現われないでくださる?」
イキテレラは、申し訳なさそうに魔女にお願いした。
 
「ん、まあ、別に良いけどね。
 王子は本当にあんたと結婚したがっているようだよ。」
 
「ええええええええっっっ?」
イキテレラが、イヤそうに叫んだ。
 
 
 続く
 
 
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イキテレラ 6

「嫌なのかい?
 街中の娘が憧れる王子との結婚だよ?」
 
「皇太子妃なんて、滅相もございませんわ。
 わたくしは、平穏を望みますのよ。」
「今のその生活が平穏かねえ?」
 
「わたくしはこの家のただひとりの直系ですのよ。
 姉ふたりは、いずれ嫁に出ます。
 わたくしは婿を取って、この家を守る予定ですの。」
 
「それで、婿さんが放蕩者だった、というオチかい?」
意地悪く笑う魔女に、イキテレラは平然と答えた。
「貧乏貴族に婿に来る男性など、その程度のものですわ。」
 
 
「うーん、あんたの性格がイマイチよくわからないねえ。」
「多くは望まないだけですわ。
 さ、もうお帰りになって。」
 
イキテレラに押し出されながら、魔女は言った。
「あの靴は、本当にあんたのものなんだよ。」
「もう関係ありませんわ。」
 
イキテレラは木戸を閉めた。
さあ、忘却して、通常の日々に戻ろう。
 
 
ところが、“通常の日々” は遠かった。
靴の試着に行った義姉ふたりが、大ケガをして帰ってきたのである。
 
靴はガラスで出来ていたので、割れたのを接着剤でくっつけてあった。
そこに何人もの女性が、無理矢理足を突っ込もうとしたので
ヒビがどんどん広がり、試した女性は皆、足を切ったのだ。
 
腱が切れて、歩けなくなった女性もいたらしい。
そしてとうとう、靴は砕け散ってしまった。
 
 
翌日、掲示板の紙が貼りかえられた。
 
『 この靴の持ち主を知っている人に
  5000万ゴールドを褒美として取らせる 』
 
実物大の靴の絵と、説明が書いてあった。
 
 
「あんたに5000万の値が付いたねえ。」
キッチンの窓から覗き込む魔女を見もせずに
皿を洗うイキテレラが言い放つ。
「何の話かわかりませんわ。」
 
「ねえ、本音を教えておくれよ
 気になってしょうがないんだよ。
 教えてくれたら、もうここには来ないからさ。」
 
その言葉が信じられず、イキテレラは魔女を睨んだ。
魔女の目からは、いつもの薄ら笑いが消えていた。
 
イキテレラは、少し諦めた表情になり
洗濯物が積み上げられたカゴを持って、庭に出てきた。
 
 
シーツを洗いながら、イキテレラが話し始めた。
「わたくし、王子さまが嫌いですの。」
その目は、洗濯物だけを見ていた。
「正確に言いますと、わたくしはわたくしを好む男性が嫌いですの。」
 
「どういう事だい?」
「わたくし、生まれてすぐに母を亡くし
 お父さまは、ああでしょう?
 子供の頃から満足に食べさせてもらえずに
 栄養失調できちんと体が発達できなかったんですの。」
 
魔女はイキテレラの体格をジロジロと見た。
確かに同年代の女性と比べると、一回り小さい。
 
 
「ところが世の中には、小さい女性を好む男性というのが結構いるらしく
 わたくしも、そのような方々に随分つきまとわれましたわ。
 そういう嗜好の方々って、何故か自分たちは逆に
 人一倍、体が大きい場合が多いんですのよね。
 おかげで恐ろしい思いも何度もいたしましたわ。」
 
イキテレラは、布に怒りをぶつけるかのように
ゴシゴシとこすり始めた。
 
「わたくしの不幸の証しであるこの体型を、“好み” だなど
 何と、おぞましい!!!」
 
 
なるほどねえ、魔女は納得した。
「うん、よくわかったよ。
 言いにくい事を言わせてすまなかった。
 もう、あんたの邪魔はしないからね。
 元気でおやり。」
 
魔女は立ち上がった。
イキテレラは、ようやく魔女の顔を見て少し笑った。
 
 
 続く
 
 
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       イキテレラ 7 10.5.27
       
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イキテレラ 7

昼食の用意をしていると、玄関のドアが激しく叩かれた。
台所の窓から覗くと、家の前の通りに馬が何頭も繋がれている。
 
どうやら父親がドアを開けたようである。
家の中に大勢の人間が入り込む気配がする。
 
「どの娘だ?」
「違う、こっちじゃない。」
響き渡る大声に、料理の手も止まり怯えるイキテレラ。
 
 
台所のドアが勢い良く開き、羽付きハットをかぶった制服の男が入ってきた。
「おーい、こっちにひとりいるぞー。」
 
逃げようとしたけど数人の男たちに押さえつけられ、足を掴まれた。
「いやあああああああああああああああ」
叫ぶイキテレラの足先に固く冷たいものが当たる。
 
ふと見ると、あのガラスの靴を履かされていた。
割れていない。
ヒビひとつも入っていない。
 
どういう事?
 
イキテレラはパニックを起こした。
 
 
城にひとりの男がやってきた。
「あの貼り紙の靴に心当たりがあるんすけど・・・。」
男がバッグから出したものは、ガラスの靴だった。
 
男はイキテレラの家の近所に住むガラス職人だった。
男はミニっ娘萌えであった。
しかも足フェチであった。
 
イキテレラの古靴を盗み、その足型に合わせてガラスで
輝く美しい靴を作った。
魔女が言った “あんたの靴” とは、この事だったのである。
 
 
男は報奨金目当てに名乗り出た。
自室にあるはずの、自作の靴が片方なくなっていて
それが城にある理由は、男には皆目見当も付かなかったが
持ってきた靴と、城にある砕けた靴が一致した事から
男の話が真実だと判明した。
 
しかし男は報奨金を受け取れなかった。
 
「それではおまえは、貴族の姫の足にハアハアしていたんだな?」
そう追求されて、男は打ち首となった。
 
報奨金は、男の年老いた母親へと贈られた。
母親は、その金で風光明媚な保養地に家を買った。
 
 
そして、イキテレラの家に兵が派遣された。
イキテレラは、必死に抵抗をした。
 
「お父さま、助けて、お父さまーーーーーっ!!!」
娘の悲鳴に、父親はオロオロするだけだった。
 
「姫さま、どうかお気を静めてください。」
兵たちのなだめる言葉も、イキテレラの耳には入らず
イキテレラは泣き喚きながら、3人がかりで抱えられて馬車に乗せられた。
 
あまりの騒動に、家の周りには人垣が出来ていた。
 
 
 続く
 
 
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イキテレラ 8

城に着く頃には、イキテレラは叫び疲れて大人しくなっていた。
つぎはぎだらけのみすぼらしい服を脱がされ
大勢の女性たちにかしづかれて、入浴をさせられた。
 
その間中、イキテレラは涙を流していた。
他人の手が気持ち悪くてしょうがない。
何故自分がこんな目に遭わなくてはならないのか。
その嘆きようは、侍女たちも気の毒に思うほどであった。
 
 
美しく着飾らせられたイキテレラは
王の前へと連れていかれた。
 
涙を流しながら震える小さい女性を、王妃は哀れんだ。
「仮にも貴族の娘ですのに
 何故このような乱暴な事をなさるのです?」
 
「い、いや、わしはそういう命令は出しておらんぞ。
 王子が先走って・・・。」
慌てる王を無視して、王妃はイキテレラに近寄った。
「小さいお方、さぞ恐かったことでしょう、お可哀想に。
 もう大丈夫ですよ、わたくしは王妃です。」
 
イキテレラが、泣きながらも礼儀正しくお辞儀をして
挨拶の言葉を述べようとした。
「~~~~~~・・・・・!!!!!」
 
イキテレラは驚いて喉を押さえた。
声が出ないのである。
拉致の際のあまりの絶叫に、イキテレラの喉は潰れていた。
王は激怒し、兵たちを死刑に、王子を謹慎にした。
 
 
イキテレラは、しばらく湖のほとりの城で静養をする事になった。
すべてが自分の意思以外のところで動いている。
毎日毎日を、ただ嘆いて暮らした。
 
その頃、城ではイラ立つ王子がウロウロと歩き回っていた。
段取りを無視して、無理強いをした罰として
イキテレラに会わせてすらもらえないからである。
 
書庫では、司書たちがイキテレラの家系を調べていた。
「イキテレラさまの、曽祖父の従兄弟の叔母の長女が
 当時の公爵家の次男に嫁いでいらっしゃいました。」
 
「では、姫は公爵家ゆかりの由緒正しい血筋、という事になるな?」
「それで差し支えないかと。」
「よし、王さまにご報告を!」
 
 
イキテレラは城に連れ戻された。
王と王妃の横に立っているのが、王子らしい。
 
舞踏会の夜の男性など、顔も見ていないイキテレラには
初めて会うも同然である。
しかし想像以上に、背が高くガッチリとしたその体型に
イキテレラは愕然とした。
 
この男性が、ここ何週間かの恐怖の元凶で
その上にイキテレラの最も苦手なタイプだ。
イキテレラは、思わず目を背けた。
王子を直視できないほどのトラウマを抱えてしまったのである。
 
 
「姫、あなたに再び会える日をどれだけ待ったか・・・。」
王子は “待て” をくらったせいで、喜びを抑えられず
イキテレラの元に駆け寄り、抱きついてきた。
 
イキテレラは、きゃあああああ! と叫んで、王子の腕を振り払い
この突然の無体に、しゃがみこんでワナワナと体を震わせた。
何なの? この人、暴漢なの?
 

「遊び女とは違いますのよ、王子。
 あなたの正妃となる血筋正しい女性には
 もう少し理性的に接しなさい。」
王妃が呆れたように、冷たく言い放った。
 
正妃? わたくしが?
何故そのような事に?
 
イキテレラは、目の前が真っ暗になり
次の瞬間、床に倒れた。
 
 
 続く
 
 
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イキテレラ 9

婚礼が決まり、再び泣き暮らすイキテレラの元に王妃がやってきた。
「イキテレラ、あなた、王子が嫌いなのかしら?」
王妃は優しくイキテレラの髪を撫ぜる。
 
「王子は我が子ながら、たくましく立派な青年で
 多くの女性たちから恋される、理想的な男性ですのに
 あの子のどこが不満なのかしら?」
 
イキテレラは、オドオドしながら答えた。
「王妃さま、王子さまに不満など・・・。
 ただ・・・、わたくしは・・・、男性が恐いのです・・・。」
 
「まあ!」
おっほっほ と、王妃は高らかに笑った。
 
「お可愛いらしいお方。
 心配する事はなくてよ。
 王子も今はあなたにご執心だけど
 あのような美丈夫、誘惑は多い。
 すぐに次の女性へと気を移しますわ。
 正妃の仕事は、世継ぎを産みさえすれば終わり。
 後は好きに暮らせるのよ。」
 
王妃はにっこりと微笑み、イキテレラの頬を撫ぜた。
「少しの間だけ、辛抱なさいね。」
 
 
イキテレラはその言葉を頼りに、耐える決心をした。
何もこの男性は、自分を取って喰おうとしているわけではないのだ。
家を継いでも、どんな男性が婿入りするかわからない。
どうせいずれは、結婚はせねばならない運命なのである。
 
にしても、相手があの人とは、あんまりだわ・・・。
イキテレラは遠くから王子の後姿を盗み見て、改めてショックを受けた。
 
大抵の女性なら喜ぶ、広くたくましい背中は
イキテレラにとっては、恐怖の対象でしかない。
せめてもう少し華奢な人だったら、まだ良かったのに・・・
 
イキテレラは元々、ここまでの男性恐怖症ではなかった。
舞踏会での強引さ、しつこい貼り紙、そして突然の拉致
経験した事のない、それらの非現実的な出来事での恐怖が
すべて王子由来だと刷り込まれてしまったのだ。
 
 
婚礼の儀は、イキテレラには苦行だった。
常に隣に怪物がいる気分であった。
 
パレードの時には、無理に笑顔を作って手を振ってはいたが
王子に握られている片手は、震えて汗をかいていた。
 
王子はそれを行事への緊張だと勘違いし
イキテレラの頬にキスをし、ささやいた。
「私のか弱い姫、今日からは私があなたを守ると誓おう。」
 
 
王子の顔が近付いた時に、一瞬だけイキテレラの表情がこわばったが
何とか平静を保ってやり過ごした。
この嫌悪感を、誰にも気付かれてはならない。
 
その瞬間に、多分人生が終わるから。
 
 
 続く
 
 
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イキテレラ 10

初夜の事は、まったく記憶にない。
しかし、そんな事はもはや問題ではなかった。
王子は毎晩イキテレラの寝室へと来るのである。
 
たとえ伽をしなくとも、隣で眠る。
イキテレラの体を抱きしめて。
 
 
それで王子は心地良く眠れているようだが
イキテレラの方は、まったく眠れない。
何日経っても、この男に慣れないのである。
 
わたくしを守ってくださると仰るのなら
この方がこの世からいなくなってくれるのが一番早いのに・・・。
しかし、この願いは絶対に叶わない。
 
妊娠を待つ身としては、薬も酒も厳禁で
寝不足が続き、どうなるかと心配していた矢先に
懐妊したと知らされた時は、心の底からホッとした。
これでわたくしの役目は終わる。
 
 
身ごもったイキテレラは、何よりも優先された。
王子の訪問も、つわりを理由に断る事ができた。
 
周囲にいるのは、物静かな侍女だけ。
時々王妃さまが気遣って見舞ってくださる。
イキテレラは、城で初めての安らかな時間を過ごす事ができた。
これで産まれてくるのが、世継ぎであれば・・・。
 
 
イキテレラの祈りが届いたのか、無事に健康な男児を出産した。
出産直後のイキテレラの元に、王子がやってきた。
 
「我が愛する妃よ、世継ぎを与えてくれた事を心より感謝します。」
王子の瞳からこぼれた涙が、イキテレラの頬に落ちた。
王子は疲れきってもうろうとしているイキテレラに口付けた。
 
 
育児は主に乳母がした。
イキテレラは時々授乳をするだけである。
 
王家というのは、このようなものなのかしら?
子を産んだというのに、母親になった実感もない。
わたくしは何をして過ごせばよろしいの?
 
日々をボンヤリと過ごすイキテレラに、侍女が王子の訪問を告げる。
産後の体調不良を理由に、ずっと避けてきたのだけれど
今日はイキテレラの実家に関して話があるらしいので
断るわけにはいかない。
イキテレラは渋々と腰を上げた。
 
 
ドアを開けると、王子は窓際に立っていた。
日光を受けるその姿を見て、イキテレラは思った。
あら、このお方の髪の色は黄土色ですのね。
 
王子は久しぶりに会う妻を、眩しそうに見つめた。
「具合はいかがですか?」
「ええ・・・、まだ少し・・・。」
 
「そのようなあなたをわずらわせるのは、心苦しいのですが
 あなたのご実家の事で、少し相談がありましてね。」
 
 
イキテレラの実家は、婚礼の際に多額の支度金を王家から渡された。
そして皇太子妃の実家として、月々の “恩給” も貰っているのだ。
「問題は、この他にちょくちょく金銭の工面に来られるのですよ。
 あなたのお父上がね。」
 
「まあ、何てみっともない・・・。」
イキテレラは、目を伏せて深く溜め息をついた。
「お義母さまとお義姉さまたちは、少し贅沢なんですの・・・。
 うちは貴族とは言え、決して裕福ではありませんのに・・・。」
 
イキテレラの嘆きに、王子は慌てて言いつくろった。
「ああ、いえ、違います。
 お金の事は構わないのです。
 ただ、その、義理の母娘たちはあなたをいじめていたくせに
 皇太子妃になったあなたにタカって、という噂が街でたっていましてね。
 それは外聞が悪いんじゃないか、と大臣たちが心配するのですよ。」
 
「ああ・・・、そういう事でしたの・・・。」
イキテレラは、目を上げて窓の外に広がる空を見た。
 
 
しばらく無言で流れる雲を見つめていたけれど
実はイキテレラは、実家の問題については何も考えていなかった。
ただ、隣に立っている大きな男性の存在感を
明るい昼間の太陽の光で打ち消そうとしていたのである。
 
何故このお方は、こうも私の顔を凝視するのかしら・・・
イキテレラはイライラさせられていた。
決して王子の方を見ようとはしなかったが
王子の仕草は、目の端でわかる。
 
「わたくしの実家の事は、すべてお任せいたしますわ。
 嫁いだ身としては、口を出す権利はございません。」
 
 
イキテレラが窓に背を向けた時に、王子が言った。
「あなたとこのように会話をするのは初めてですね。」
 
「そうですか? ではわたくしはこれで・・・。」
王子の言葉に妙な色気を感じて、ゾッとして
ドアへと急ぐイキテレラを、王子が背後から抱きしめる。
 
「このような日中から何を考えていらっしゃるのです!」
「あなたを間近に見て我慢できるほど、私は忍耐強くはないんですよ。」
 
まさか王子という身分の者に、“無礼者” と言えるわけもない。
 
 
王子がイキテレラのドレスを整えながら、激情を詫びた時にも
王子が部屋を出て行って、侍女が迎えに来た時にも
イキテレラは無言で平静を装った。
 
夫が妻に性行為をするのは、当然の事なのである。
 
 
 続く
 
 
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